Sexual stimulant -musk- 後編












一度熱を放った後は、放心同然に京子はぼんやりとしていた。
変化のない天井を見つめる瞳は亡羊として、頭の芯がどろりと溶けているような気がする。



そのまま、どれ程の時間を過ごしていたか。
カチャリと耳に届いた小さな音に、京子はようやく起き上がった。








「――――――ああ、京ちゃん」








来てたんだね、いらっしゃい、と。
留守にしている間に訪ねてきた恋人に、八剣は慣れたもので驚きもせずにお決まりの挨拶。

京子はぼんやりとした所作で、それにおう、と応えた。



手に持っていた買い物袋を置いて、八剣はふと、京子の様子が可笑しい事に気付く。


学校指定の鞄は無造作に部屋に放り投げられ、木刀は壁に立てられている。
それはいつも通りで、彼女が勝手知ったる所作でベッドを占領しているのも見慣れたものだ。

けれど、気の所為か――――いや、それにしてはやけにはっきりと。

微かに熱を宿した瞳と、ほんの少し火照った頬。
体調が悪いのかと八剣は一瞬考えたが、それよりも、まるで情事の時の彼女を思い起こさせた。
シーツの波の中に座り込んだままの脚が、色香を醸し出していた。






「京ちゃん?」






呼びかけると、京子から返事はない。
しかし、それでも反応はあって、京子の目が八剣へと向けられる。






「………」
「どうかした?」






ベッドに腰を下ろして問うと、京子の目が少し泳ぐ。
それがまだキスにすら慣れていない頃の初々しさに似ていた。

しかし京子は数瞬後、意を決したようによし、と小さく呟いてから、






「八剣、ちょっと来い」
「うん?」






ベッドの上、自分の座る位置の目の前を示して、京子が言った。

言われた通り、八剣は京子の前に移動した。
京子は幾分緊張した面持ちをしていたが、真一文字に結んだ唇が、彼女の決意の固さを表している。
…何を覚悟しているのか、この時、八剣にはまるで判らなかったのだが。



京子の腕が伸びて、八剣の首に絡みつく。
唇が触れ合った。



突然のことに瞠目する八剣に構わず――――いや、気付かずに、京子は目を閉じて八剣にキスをする。
噛み付くような不器用さは、普段、八剣に全てを任せ切っているからだろう。
するりと侵入した舌は、相手の反応を窺うように彷徨いながら、八剣のそれに絡まった。






「ん、ん………」
「……ん……」






急な事に驚いたとは言え、恥ずかしがり屋の恋人からのキスだ。
八剣に、これを拒否する理由はなかった。


深くなる口付けに応えながら、八剣は柔らかなものが自分の胸に当たっていることに気付く。

制服を押し上げる豊満な胸と、ぽつりと尖った一点。
京子がブラジャーをつけていない事に、本当に何があったのかと心配になったが、京子は行為を止める様子がなく、八剣も無理にそれを中断させる気にはならなかった。
特別、彼女が無理をしているように見えなかったからだ。

―――――押し付けられた胸の奥で、早い鼓動が鳴っているのは気付いたけれど。







「ふぁ……ん、んん……ッ」







京子が更に胸を押し付けてきて、八剣に体重を乗せた。
支えをしていない八剣の体は後ろ向きに倒れて、京子を上に乗せたまま、ベッドに落ちる。






「ん…っは……ぁ…」






ようやく唇が離れて、八剣は赤い顔をした京子を見上げた。
自分が京子を見上げているのも、中々ない事だなと思いつつ。

京子の方も、自分が八剣を見下ろしていると言う構図に、不思議な感覚を覚えていた。


八剣の手が京子の頬を撫でて、耳朶を掠め、首の後ろへと伸びる。
ゆったりとしたその動きに、京子は小さく身を震わせた。






「どうしたの?」
「……るせェ。黙ってろ」
「そう言われても――――」






嬉しいけど、滅多にない事だからねェ、と。
眉をハの字にして笑んで見せる八剣に、京子の朱色が益々色濃いものになった。

今になって、ついさっきまでの自分の行動と思考が恥ずかしくなる。
けれど、もう止めるに止められない。
口付けている間にも、下肢には甘い痺れのようなものが奔っていて、濡れ始めていた。



京子の躯が少しずつ、八剣と同じ目線から降りていく。
八剣は上半身だけを起き上がらせると、彼女は八剣の着物の裾を捲っていた。







「京ちゃん?」







呼びかけにも応答しないまま、京子は八剣の下着も緩めて、雄を取り出す。
半勃ち状態になっているそれに、京子は恐る恐る、顔を近付けた。

ぴちゃりと京子の下が己の雄を舐め上げて、八剣はまた瞠目した。






「……っは…ん…ちゅ……」






八剣の雄に手を添えて、京子は目の前の熱に舌を這わした。
時折、八剣の様子を見上げてみると、自分と同じ熱を持ち始めた瞳とぶつかる。







「随分、今日は積極的だね」
「うぅん……っぷ、はッ……あむッ…」






亀頭を咥え込んで、先端で舌を転がす。
ぴくりと八剣の体が震えて、京子は少し嬉しくなった自分を自覚する。



フェラチオなんて初めてだ。
何処をどうすれば良いのかは、正直言ってよく判らない。

それでも八剣が感じているのだと思うと、自分の行動の恥ずかしさより、喜びの方が上回る。


同時に、咥内で質量を増していく熱に、躯の火照りが助長される。
心臓が煩いくらいに鳴っているのは、緊張と興奮と羞恥と、果たしてどれの所為だろう。




添えていただけだった手で、雄を扱く。
八剣が息を呑んだのが判った。






「京ちゃん…ッ」
「っは……」






苦しくなって、京子は一旦口を離した。
八剣も少しほっとしたように息を吐く。

ふぅふぅと呼吸をする京子の髪を、節張った手が撫でる。






「なんの気紛れの日なのかな」
「……嫌、なのかよ…」
「まさか」





京子の問いに、八剣は即座に否定を示した。

好きな女にこんな事をされて、誰が嫌になるものか。
その子が滅多にしない事をするから(それも唐突に)、驚きはしたけれど。






「嬉しいよ、京ちゃんが俺を舐めてくれるのは」
「…………」






自分で始めた行為であったが、言われると京子はまた恥ずかしくなる。
でも、今はそれ以上に。






「……続き、」






する、とも言わずに、京子はまた八剣の雄に顔を近付けた。

と、ふと思い立って、制服をたくし上げる。
ブラジャーで支えられていない胸がぷるんと零れ落ちた。


八剣の雄を胸で挟む。


肌が吸い付くように雄を包み込んだ。
柔らかい媚肉に挟まれた雄は、ドクドクと脈打ち、支えずとも天に向けて勃っている。

京子は胸を両手で内側へと押し付ける。
柔らかな肉が形を変えて、ぴったりと雄に密着した。






「っン…熱……ッ」






密着した根元の熱が半端なものではないように感じられた。
それに誘発されるように、また京子の秘部が疼く。






「は……ん…うぅん…」






谷間に挟んだ雄に、舌を当てた。


鼻腔を突く匂いが京子をまた興奮させ、少し前に濡らした膣口からまた蜜が溢れ始める。
触れられても、触れてもいないのに―――――そう思ったのは一瞬で、もどかしさに腰が揺らめく。

眼前の雄に舌を這わしながら、京子は自らの秘部に手を伸ばす。
ショーツを下ろし、指先を触れさせると其処はぐっしょりと濡れそぼり、京子は躊躇わず其処に指を滑り込ませた。







「ん、ぅううんッ……!」






ぴちゃ、ぴちゃ。
くちゅり、つぷんっ。

卑猥な水音が室内に響き、その音すらも京子の脳髄を犯してゆく。






「ん、ん…ぅうん…っふ…っは……」






膣を出入りする指に蜜液が纏わりつく。
それが潤滑油となって、徐々に指は京子の内部深くへと侵入しようとしていた。


恋人の熱を咥えて、奉仕しながら、自らを慰めている。
はしたない事をしていると、今の京子に思う余裕はなかった。

早くこの熱を治めたい――――いや、今よりももっと高みへと昇りたい。
指なんかよりももっと大きくて太い熱で、限界の限界まで上り詰めて、解放はそれからでいい。
それの、ずっと後で良い。




一心不乱に雄の勃起を手伝う京子。
その下肢を彼女が自分自身で攻めていることに、八剣は気付いていて、






「京ちゃん」
「ん……ぷぁッ…」






呼びかけだけでは聞かないだろうと、八剣は、京子の頭を少し強引に自分の下肢から離させた。

京子はぼおっとした瞳で、八剣を見上げる。
何か失敗したかと、子供のようにことりと首を傾げながら。






「今の京ちゃんも、見ていて凄くイイんだけど」
「……ん……?」
「お尻、こっちに向けて」






八剣の言葉の通り、京子は四つ這いになって姿勢を反転させた。






「俺の顔跨いで」






常時ならば、そんな事をすればどういう状態になるか判るだろう。
京子が嫌がるのも想像できる。

しかし、脳髄まで蕩けそうな程に熱に侵食された京子に、やはりそんな余裕はない。



言われるがままに、京子は八剣の頭を跨いだ。
シックスナインの体位だ。


ちらりと下肢を見遣れば、あらぬ場所をじっと見つめている八剣がいる。
京子の顔に朱色が奔ったが、それでも京子は其処から逃げなかった。

見られている事に興奮している自分がいる。
誰にも見せない場所を、この男だけに曝け出している。
それが無性に躯を熱くさせていて。






「ヒクヒクしてるよ」
「んぅ……言う、なぁ……」






八剣の言葉に、また羞恥と興奮が高まる。


京子は、再三、八剣の雄を口に含んだ。






「ん、んくッ…ふぅッ…ちゅ…」
「エッチだね、京ちゃん」
「ふぁ…っは、んんぅ……」






雄の根元を胸で擦り、亀頭に吸い付く。
ちゅっと一度吸い上げると、八剣の躯がぴくりと揺れ、先端から先走りがとろりと漏れ始めた。


上半身を完全に八剣の躯に預けて、京子は腰だけを高く上げていた。
その腰がゆるゆると揺らめいて、物欲しそうに切なく震える。

八剣の指が、京子の膣口に触れた。






「……ッ…」






雄を咥えたままの京子の口の奥で、熱い息が漏れる。
やっと触れられたのが、嬉しい。


指が数回膣の形をなぞり、二本の指が入り口を拡げた。
剥き出しになった性器に外気が滑り込んできて、温度差に京子は切ない声を上げる。

綺麗な色をした其処に、八剣は顔を近付け、唇を寄せた。






「ん、あッ」






ちゅぽん、と京子の口から八剣の雄が抜ける。


駆け抜ける快感が京子の躯を犯す。
下肢から聞こえる濡れた音に、京子は背を仰け反らせて啼いた。






「あ、や、舐めちゃ…やぁあッ
「よく濡れてる……」
「はひッ…あ、あ、らめ……んはぁッ…」






生暖かい舌が内部へ侵入し、柔らかな皮肉をグニグニと押し広げていく。






「んぅ、あ、あ、ああぁッ や、あ、らめぇ…
「口がお留守になってるよ、京ちゃん」
「んはッ、あ、……んんっ…!」






言われて、京子はまた雄を口に含む。
けれども体中を迸る快感の波に呑まれて、口一つ思うように動かせない。
辛うじて舌が動くのは、八剣の愛撫に漏れる声の反動だ。

だがそれも八剣にとっては愛しくて、彼女の咥内を犯す自身は既に固く張り詰めている。






「んふ、ぅうんっ…っは、あ、やつ、るぎぃ……ッ」






京子の脚がガクガクと震えている。
膣から顔を離し、悪戯に太腿を撫でて舌を這わすと、大袈裟なほどに甘い悲鳴が部屋に響いた。


自身の蜜と八剣の唾液でトロトロに溶けた其処に、今度は指が滑り込んだ。

自分の指よりも長く節張った、愛する男の指。
中へ中へと奥を目指す挿入に痛みはなく、あるのは甘い地獄のような快感。
京子の瞳は光悦とした色を灯し、理性は遠い場所にあってもう掴めなかった。






「大洪水、だね」
「んぁ…あ、やぁ……拡げ、な……」
「可愛いよ」
「ふぁんッ!」






膣の中で指がくるりと方向を変えた。
擦れる感触に京子の躯が一際大きく震える。


締め付けようとする肉壁を少しずつ広げながら、八剣の指は京子の奥を目指す。
そうして、もうそろそろ到達するかと思った時、






「ん、っはぁ……ま、待って…ん……待てッ…!」







精一杯の大きな声で、京子が言った。
普段の大声の何分の一もなかったが、八剣に聞こえるには十分だった。

指を侵入させる手を止めると、京子が顔を此方に向けていた。






「お、奥、は……あッ…、お前の…が、ひゃうんッ!」






京子の言葉が終わるのを待たずに、八剣は指を抜いた。

その感触に京子は達しそうになる。
けれども決定打を与えられていなかったからか、熱の放出は免れた。

達さずに済んだのは良かったが―――――それが返って、京子の熱を煽る羽目になる。


ふるふると全身を震わせながら、京子はし姿勢を反転させた。
京子が上に乗ったままなのは変わらずに。

目の前の愛しい男に口付けて、京子は高く天を突く雄に淫核を擦り付ける。
敏感な其処に刺激を与えれば、内部を犯されるのとは違った快感があった。






「んは、はひッ……や、八剣ぃ……ッ」






そのままずっと快感を追っているのも良い――――そんな誘惑もあった。
けれどそれより、やっぱり一つに繋がりたい。


八剣の胸に擦り寄ると、嗅ぎ慣れたこの男の匂いがして、京子はうっとりとした笑みを浮かべる。





「出来る?」
「……っは…多分ッ……」






上から退こうとしない京子を、八剣は拒否しなかった。
この男は、何処までも京子の好きにさせてくれる。



雄を入り口に宛がうと、それだけで伝わる熱に酔わされる。
ちらりと下肢を見遣れば、先ほどまで目の前にあった大きな雄が其処にあった。

他の男のそれがどんなものか、京子は知らない。
知らないが、多分、これは大きい方なんじゃないだろうか。
繋がった時の圧迫感や熱さを思い出すだけで、京子の膣はヒクヒクと収縮する。


乱れのない八剣の着物を握り締めて、京子はゆっくりと腰を落として行った。






「あ…ん……っは…ふぁ…ッ






息を止めると苦しくなるし、痛くなるから。
意識して息を吐きながら、京子は八剣を受け入れた。






「は…はい…った、ぁ……?」






問いかける京子に、八剣が頷く。

繋がった熱が溶け合って、何処から何処までが自分なのかが京子には判らない。
蕩け切った秘部からの痛みはなく、あるのは動物の本能を刺激する甘い毒の香り。


自ら腰を揺らし始めた京子に、八剣は驚きもありながらも、確かに興奮していた。
理性を手放し、衝動のままに踊る彼女の、なんと艶やかな事か。
恥ずかしがり屋の彼女も好きだが、こういうのも悪くない。






(たまに、ならね)






いつもこんな風だと、無理をさせてしまいそうだ。
実際今も、かなり我慢を強いていたりする。






「んはッ、あ、あ、…ふぁあん…あッ、はひッ…あッ






八剣の腹に手を付いて、京子は夢中になって腰を揺らす。

じゅぷじゅぷと絶え間なく続く淫らな水音。
濡れそぼった秘部を繰り返し出入りする雄は、限界まで膨れ上がっている。






「はぅ、あ、おっき、んぁあッ!」
「京ちゃん、動いて良い?」
「…あ、あはッ、ん……はぅ…!」





喘ぎながら、京子は八剣の問いに何度も頷いた。


八剣の腕が京子の脚を掴んで、抑えると同時に腰を浮かす。
自重と逃げ場を失って、京子は下からの突き上げをダイレクトに受け止めた。







「あッはぁあんッ







ビクン、ビクン、と京子の躯が大きく痙攣した。






「んぁ、あッ、あひッ! 激し、あぁッ! お、かしく、なるぅッ……
「気持ち良い?」
「ん、いぃッ、其処ぉっ! もっとぉ……!」






八剣の突き上げのリズムに合わせて、京子は尚も腰を振る。

徐々に奥へ奥へと深く突き刺さって行く熱。
京子の動きも大胆さを増して行った。






「あふ、ふぁッ! おっきぃ…の、気持ちイイッ…! あ、らめぇッ






躯に力が入らなくて、起きていられない。
そんな京子の腕を八剣が掴み、自分の方へと軽く引いた。

抵抗なく、京子は八剣の胸に倒れ、八剣の腕の中に納まった。







「ふぁ……







触れ合う存在の温もりと、気配と。
嗅ぎ慣れた匂いが嬉しくて、京子は八剣に抱きついた。


いつになく甘える仕種を見せる京子が、八剣にはとても可愛らしく見える。

意地っ張りでプライドが高い彼女が甘えてくるなんて滅多にない。
それでも今は理由を利かず、京子の好きにさせた。



見下ろす京子の表情が、まるで口付けをねだっているように見えて。
八剣は京子の頬に手を添えて、潤んだ唇を引き寄せ、自分のそれと重ね合わせた。

舌が侵入すると京子の肩がピクリと跳ね、たどたどしく応えるように舌が触れ合う。






「ん、ん……んちゅ…っは、あぁんッ」






唇が離れれば、溢れ出すのは歓喜の声。


雄の先端が奥を掠めて、京子の背が弓なりに仰け反った。
一種に気が詰まって、雄を強く締め付ける。






「っく……京ちゃん…ッ」






呻く八剣が、限界が近いことを知らせていた。
それは京子も同じで、何度も必死に堪えた劣情は、体中を暴れまわって京子のバイオリズムを狂わせている。






「イく、もうッ、もうイっちゃうぅ……!」
「一緒にイこう……ね?」






我慢できないと縋り付いて訴える京子に、八剣は宥めるように頭を撫でる。


肌のぶつかり合う音のリズムが早くなる。

八剣の着物は皺くちゃになって、京子の制服もそれは同じ。
特に京子のスカートは、京子自身の蜜の染みがついていて、とても来て歩けるものではない。
でも、もう脱ぐ暇も待てない。








「く、る、来ちゃうッ! 熱いの…ッ! あ、はぁあぁあんッッ








絶頂を迎え、京子は今日一番の熱を放つのを感じていた。

同時に、京子の膣内にも熱い迸りが溢れて来る。
ドクドクと零れんばかりに弾け出す白濁を、搾り取るように、京子は尚も八剣の雄を締め付ける。






「はッ…あ、ふぁあ……
「可愛いよ、京ちゃん」
「ん、んん………」






囁かれる愛と、口付けと。
もうしばらくこのままでいたくて。

口に出さないワガママを、八剣はやはり気付いていて、思うままにさせてくれた。




























行為を終えて、クタクタだった躯をどうにか起こして、京子は一人でシャワーを浴びた。


本当は(恥ずかしかったけれど)もう少し一緒にいたかった。
だから風呂を促された時、八剣の手を引いてみたのだが、結局それは叶わなかった。

「一緒にいたらもっとしたくなるから」らしい……それでも良いと一瞬思った自分が恥ずかしくなった。
だけれど、実際に一緒に入っていたら、処理の時に八剣が何もしなかったのか―――――否、自分が我慢できたかどうか、今日ばかりは京子は自信がなかった。




しばらく湯に当たって、ほっと息を吐いて。
熱に浮かされていた頭が幾らか落ち着いて、京子はバスルームを後にした。


制服は洗濯機の中でぐるぐる回っていて、代わりに用意された褥に袖を通す。
適当に袂を合わせて、また適当に帯を結ぶ。






「上がったぜ」
「ああ」






部屋に戻って八剣の顔を見ると、何故かホッとしたような気がした。
別段、何がある訳でもない筈なのに。

いよいよ今日の自分は可笑しいと思う。
が、それを表に出すのは嫌なので、京子はがりがりと頭を掻いてその感情に気付かない振りをする。


京子の指が髪を引っ掛ける度、ぱらぱらと水滴が跳ねる。
これはいつもの事で、八剣はやれやれと苦笑した。






「おいで、京ちゃん」






いつものように手を差し出して言う八剣に、京子は抵抗感なく近付く。

肩に引っ掛けていたタオルを渡して、八剣の前に背中を向けて座った。
直ぐにタオルが頭に乗って、八剣が京子の頭を拭く。






「いつも言ってるだろう。痛むよ」
「いつも言ってんだろーが。別にいいんだよ」
「俺が嫌なんだよ」






この遣り取りもいつもの繰り返し。
なんだってそんなに気にするかねェと京子は思い、どうしてこんなに無頓着なのかなと八剣は思う。

でも、遣り取りが嫌いな訳ではなかったし、こうする事もされる事も、互いに嫌ではなかった。




濡れた髪を拭かれる度に、京子は不思議に思う事がある。
八剣が自分の髪を気にする事もそうだが、もう一つ。


どうして、この手はこんなに気持ち良いのか。

同じ髪を触るでも、葵や小蒔、遠野が面白がって京子の髪を弄っている時とは違う。
何を思ったか龍麻が頭を撫でる時とも違うし、『女優』の人達に頭を撫でられるのとも違う。

ふわふわとした気持ちになるのは、この男が触れている時だけだ。




今日も気持ち良い。
情事の時のような激しい熱さではなくて、優しく包み込まれるような温もり。

これに慣れるまでにも、時間がかかった。
好意というものにいまいち慣れていなかった京子は、心地良さと言うものも判らず、混乱していた。


―――――それが今となっては、







「どうしたの?」







頭の上にタオルを乗せたまま振り返った京子に、八剣は笑みを浮かべて問いかける。
別にと言ってまた前を向くと、また八剣は京子の髪を拭く手を再開させた。


京子の髪から余分な水分がなくなって、タオルが離れる。
それを合図に、京子は後ろにいる存在に凭れ掛かった。

見上げた先の彼の顔は、少し驚いたようで、京子はそれがなんだか可笑しかった。
“笑み”と言うポーカーフェイスを滅多に崩さない男を、ほんの少し調子崩す事が出来るのが楽しい。






「今日は随分、甘えてくれるんだね。何かあった?」
「あー……?」






腰を抱いた腕を甘受して、京子は少し身を捩って、八剣の胸に顔を埋める。

少し汗の匂いがして、そういやこいつは風呂に入ってないんだと思い出す。
けれども、着物の方は着替えたようで、皺も寄っていない。


……けれど、いつもの気配と匂いは変わらない。






この匂いが、今日はなんだかやけに心地良い。

でもその事は、目の前の男には、












「教えてやんねェ」













舌を出して笑いながら言うと、八剣は苦笑する。
意地悪だねと呟いて、額にキスを降ってくる。



だって仕方がない。
言えないものは言えない。

照れくさかった。
部屋の中に残ったお前の匂いで、寂しくなったとか。
此処にある気配を感じていたら、その寂しさが消えたとか。















そんなの、こんなにお前のこと好きなんだ、なんて告白しているみたいじゃないか。


だから一生、教えない。




















書きたかったものリスト

1. ひとりえっち
2. パイズリ(消化不良)
3. 69(微妙に不良)
4. 騎乗位

『京ちゃんリード、若しくは京ちゃんが自分から積極的に』を課題にしてました。
でも詰め込みすぎたね、ちょっと………2と3に関してはまた書きたい。


当サイトで一番乙女な京ちゃんになりましたね。

途中からどんどん調子に乗りました。
そろそろ欲望のストッパーが外れてきましたよ(爆)。

基本的に文章中に極力“記号は入れない”主義なのですが、やっぱり男性向け(言い切った)にハートマークは外せないので。……って言ってこれ入れた辺りでストッパーが緩んで来たんだな。
携帯ではコードの読み込みが出来ず表示が不可能なので、消去しています(キャリアによっては奇妙な“&a”等の文字が表示されているかも…)。