不安にならないの? と聞かれても、どう返していいのか判らない。

























Generally, said “Koibana”

























そういや随分長い付き合いになったもんだと、京子は思った。


京子達が雨紋雷人と知り合ったのは、鬼と闘うのが日常的になりつつあった頃だ。
制服が模様替えをして夏服になって、それでも陽が落ちた時間になれば、もう少し肌寒さを感じていた時期である。

あれから夏休みも終わり、九角との闘いも終わり―――――季節は既に秋から冬へと移り変わった。
早いような気がするのは、あまりにもこの日々が慌しく感じられるからだろうか。



雨紋は先日、失った友人と共に行っていたバンド活動を再開した。
友人が担当していたギターは、元々のボーカルと兼ねて雨紋が担当し、他は以前から付き合いのあった他のバンドにヘルプを頼んだ。

“CROW”の復活ライブの日、真神のメンバーは彼から直接招待を受けた。
狭いライブハウスの中、雨紋は活き活きと弦を弾き、失った友人と共に作った音を奏でた。
まだ彼も友人の喪失に思うところはあるだろうが、彼は何処までも前向きに生きていくつもりらしい。
ヘルプのバンドとの意見の相違はやはり出てくるようだが、今の彼なら、なんとか上手く立ち回るだろう。

出逢った頃の焦燥感も大分薄れ、復讐心に滾っていた胸の内も落ち着いた。
元より人付き合いも槍術の腕も良いのだ、京子達が心配する事は何もない。




そして先日も順調に、雨紋はライブを開催したらしい。

もともと“CROW”は人気のあったバンドグループだったし、チケットは殆どが即日完売。
アマチュアバンドの中では、現在特にチケットの入手が困難となっている――――とは、遠野の情報だ。







「大したもんだな、あの雷野郎も」







行き着けのラーメン屋の壁に貼られた、“CROW”ライブの宣伝ポスター。
それを一人でしみじみと眺めながら、京子は呟いた。


一時話していた京子がベースで参加するという提案は、結局お流れになっている。
少しやってみたかったのだが、それを龍麻達に言うと揃って無理だと言われてしまった。
あの全面否定は、今でも思い出すと少々腹が立つ。

だがこうして無事に活動している雨紋を見ているだけでも、まぁ良かったなと思える。
それ位には、雨紋とも長い付き合いとなっていた。




北風吹いて、京子の肩が寒さで震えた。

こんな所で突っ立っていないで、早く温かいラーメンにありつこう。
そう思って店の出入口へと、足を向けた時。






投げつけられた何かを、京子は反射的に掴んでいた。









「………なんでェ、お前」








掴んだものをそのままに、京子は振り返る。

獲物を投げつけた人物は、この立体的な地形の下層へと続く階段の前に立っていた。
綺麗な面を無表情に固め、少々きつめの眦を京子に向けて。


大人びた色香を漂わせた、それでもきっと京子と然程歳は離れていないだろう少女。
すらりと伸びた足は綺麗に揃えられており、それも恐らく、暗殺者として心得たものなのだろう。
女にとって“色”とは最大の武器なのだ――――京子はまるでそれを考えないけれど。






「……お前、確か…」






その少女に、京子は少しだけ見覚えがあった。
“CROW”の復活ライブの際、労いと差し入れをしに楽屋に赴いた時、彼女の姿があった。



拳武館と初めて対峙した時、それぞれの面々の下に、それぞれの刺客が姿を現した。
京子の前には八剣が、醍醐の前には古い親友が、龍麻の前には壬生が――――葵達の元にも現れたと聞く。
そして目の前の少女は、雨紋の命を狩りに来たのだと。

その時、雨紋は彼女を返り討ちにした。
なんでも、それが切っ掛けで彼女は雨紋に惚れ込んだらしく、半ば押しかけ女房的に雨紋の傍にいるらしい。
雨紋も憎からずは思っていないようで、追い出したり邪険に扱ったりはしていない。
仲良くやっているという事だろう。


嘗ては命を狙ってきた者が、もう一度目の前に現われ、しかも共に過ごしている。
これに葵や小蒔、醍醐は驚いたが、京子はそれ程驚くことはなかった。
……何せ自身も、あの時対峙した八剣に、やけに気に入られているようなのだ。
もう一人ぐらいそんな人間がいても不思議ではなかった。


拳武館との確執も、本物の館長が戻ってきたことで落ち着いた。
今では嘗て敵同士であった事など感じさせない程、二人の仲は傍から見ても良好らしい。

バンド活動も再開し、彼女も出来て、正に雨紋は順風満帆と言う訳だ。





――――その雨紋の恋人に、どうして自分は突然獲物を投げつけられなければならないのか。

京子は判り易く眉間に皺を寄せ、右手の木刀を強く握った。







「いきなり何の用でェ? オレはお前にこんなもんぶつけられる謂れはねェ筈だぜ」






雨紋と逢ったのは、先日のライブに招かれた時だけ。
それからは連絡こそ取り合う事はあるものの、直接逢う事はない。

ならば“拳武館”としての仕事か――――とも思ったが、拳武館は現在、閉鎖されている。


益々理由が判らず、京子は一先ず、彼女の獲物を投げ返そうとした。



が、






「………おい?」






少女は僅かに俯き、その瞳は何かを憂いているように見えた。
不思議に思って呼びかけてみると、少女は、京子の手にある彼女自身の獲物を指差す。


彼女の獲物は、扇子だ。
一体何の代物で作られているのか、普通の物よりも大きいだけでなく、重みがある。

鉄扇かねェ……と思いつつ、京子は扇子を開いてみた。
なんとなく、彼女の示した指がそうしろと―――否、そうしてくれ、と言っているように見えたのだ。




楽屋で顔を見た時から、彼女は滅多に喋らない。
いや、口が少し動いているのが見えるから、喋ってはいるようなのだが、その声は全く鼓膜に届かない。
雨紋に聞いても、極度の恥ずかしがり屋らしい、としか言われなかった。
それでどうやって恋仲になんか収まったのだと遠野が突っ込んで訊ねると、扇子で、と雨紋は言った。

最初は意味が判らなかったが、(主に遠野が)詳しく話を聞いている内に想像できるようになった。
彼女は、いつ仕込んでいるのか知らないが、扇子に一文字を添えて自身の言葉を主張するのだ。



喋ってくれた方が手っ取り早くて在り難いんだが、と思う京子だが、そこはそれ、人それぞれと言う奴だ。





開いた扇子には、薄い青色の和紙の真ん中に、濃い青色で一文字。









「……“悩”……………??」









その文字を呟き、再度彼女に目を向けると。
言葉の深さを象徴させるかのように、少女は泣き出しそうな顔をしていた。









































もう直に雪が降るんじゃないかと思う季節。
女二人で立ち話もなんだから、と京子は少女をラーメン屋へと招いた。

いつものラーメンを注文し、彼女の分も同じものを頼む。
どれが良いと聞いても返事がなかったのだ。
後から文句を言われても聞かない事にする。


ラーメンが出来上がるのを待つ間に、京子は先ほどの扇子で見た文字を思い出し、





「で? 悩んでるって?」






文字をそのまま率直に読んでいいなら、彼女の現在の心境は、そういう事になるのだろう。
間違いではなかったようで、少女はこくりと頷いた。






「……相談でもしに来たのか?」
「……………」
「そんなら、オレじゃなくて葵にしろよ。アイツなら、そりゃあ親身になって聞いてくれるだろうぜ」





オレはそんな柄じゃない、と京子は頬杖をついて少女を見遣る。
少女は数度視線を彷徨わせた後、京子を真っ直ぐに見つめた。
どうやら、京子ではないと駄目だ、と言いたいらしい。

自分が相談役にされるような人間ではないと、京子ははっきり自覚していた。
しかしこうも正面から頼られては、流石に一蹴する事も出来ない。


大体、オレじゃないと駄目ってなんなんだ。


ラーメンの香りに胃袋を刺激されつつ、京子は溜め息を吐く。







「そんじゃ、とりあえず名前教えろよ。じゃねェと、なんか喋り辛ェ」






―――――そう。
相談されるような間柄でもなければ、京子は彼女の名前すら知らないのだ。
彼女の方は、拳武館の仕事の一つとして、此方のメンバーの名前ぐらいは知っているかも知れないが。

そんな状態で相談なんて持ちかけられても、何処まで足を突っ込んで良いのか量りかねる。


京子の言葉に、一先ず京子が話だけでも聞いてくれると思ったのだろうか。
初めて少女はほんのりとした笑みを浮かべ、羅刹、と小さな声で名乗った。






「羅刹、ね」
「………」
「で、相談ってのは?」






改めて羅刹に向き直り、京子は口火を切った。


羅刹はほんの少し躊躇う仕種を見せると、上着のポケットから何かを取り出す。
どうやら写真の様で、京子は見せてみろと手を差し出した。

手渡された写真には、数人の女性に囲まれた雨紋が写っている。






「ファンの出待ちかなんかか? こんなの、人気のあるバンドや芸能人じゃよくある事だろ」
「…………」






それは判っているつもりだ、と言うように、羅刹は頷く。

続いて差し出された二枚目を、京子は受け取った。
今度は囲まれているのではなく、女性二人を両サイドに、正に両手に花状態の雨紋が写し出されている。
しかも、ご丁寧にカメラ目線でピースまでして。


雨紋のピースサインに、古いな……と関係ない事を思いつつ、これもよくある事だと、京子は思った。







「こんなでも“CROW”のボーカル兼ギターだからな。追っかけとファンサービスは自然だろ」







そう言うと、羅刹の表情が僅かに曇った。
歯痒そうな、そんな表情になる。


羅刹の表情の変化を見て、だから自分に相談するべきではないのだ、と京子は思った。
生憎、女心だとかそういうものとは、自分は遠くかけ離れている。
こういう恋愛ごとの相談をされても、親身になって一緒に悩んでやるなど出来ない性格だ。

遠野や、あれで小蒔もこういう話は好きらしいから、相談するなら断然そちらの方が良い。
この二人では途中で変な方向に逸れそうだから、安全牌なら葵だ。
男の気持ちを聞きたいというなら、きっと醍醐だろう。



―――――とにかく、自分なんかに聞くべきじゃない。




ヘイお待ち、とようやくラーメンが出来上がった。

同じタイミングで羅刹の前にも、ラーメンが差し出される。
しかし羅刹は相当滅入っているようで、箸にすら手が伸びなかった。







「食えよ。伸びたら勿体ねェだろ」
「…………」
「愚痴ぐらいなら聞いてやっから、さっさと食え。美味ェぞ、此処」






腹も膨れればもう少し持ち直すだろう。
安易な考えだが、強ち間違ってはいないのだ。
人間、腹が減ると思考回路もマイナスに流れていくように出来ているのだから。






「大体お前、そんなので凹んでたら、雷野郎の彼女なんかやってられねェぞ」
「…………」
「美味いモン食って精つけろ。そんで、他の女にデレデレしてんのがムカつくんなら、一発ぶっ飛ばしちまえ」
「…………」
「お前に一発二発食らって死ぬほど、アイツも柔じゃねェだろ」






はっきりと、全く穏やかではない助言であった。

いや、京子としては助言でもなんでもない。
不満があるならぶつけてしまえと言うのが、京子のスタイルだっただけだ。


憮然とした京子の言葉に何を思ったのか、羅刹が小さく微笑んだ。
ようやく箸を手にとって、ラーメンに口を付ける。







「な、美味ェだろ?」
「………―――――」
「おうよ」






寒い外界と違って、このラーメンは出来立てで美味い。
ラーメン好きの京子のお墨付きだ。

京子と羅刹の言葉と表情に、コニーがありがとネ、と笑った。






しばらくは、麺を啜る音と、点けっ放しのテレビの音声だけが店内に聞こえていた。






京子が粗方食べ終わると、ペースが遅いのか、羅刹はようやく半分を過ぎた頃だった。

伸びるぞ、と急かしてみると、羅刹は小さく微笑み、温かいからゆっくり食べたい、と呟いた。
別に急ぐことなど何もないので、京子はまァいいか、と思う事にした。



スープの最後まで全てを飲み干して、京子は替え玉を頼んだ。
コニーは喜んで引き受け、また厨房に立つ。






「どーだ? ちったァすっきりしたか?」





また漂ってきたラーメンのスープの香りに、二杯目を楽しみにしつつ、京子は羅刹に問う。
羅刹は小さく微笑んで、頷いた。



麺が殆ど食べ終えた羅刹が、新たな写真を取り出した。
随分ネタは上がってんだなと思いつつ、京子はまたそれも受け取る。

今度はファンサービスの写真どころではなかった。
先ほどの女性ファンとはまた別の女性が二人、雨紋を挟んで並んでいる。
雨紋は判り易く面を崩して、女性二人の肩を抱いていた。







「懲りねェな、コイツも………」






呆れて呟けば、羅刹が溜め息を吐く。


――――判ってはいるの。

ぽつりと聞こえたその言葉が、羅刹のものだと、把握するのに少々の時間がかかった。
彼女を見遣れば、羅刹は叉焼に箸をつけている所だった。






「判ってるって? アイツが女にモテるって事か?」
「仕方のない事だとは思うの」
「まぁ、“CROW”だしな。その手の心配事は付きモンだ」
「でも……ねぇ……    」
「あん?」





ぽつぽつと鼓膜に届くぐらいだった羅刹の声が、また遠くなった。
中々コミュニケーションに難がある。

聞こえにくいと顔を近付けると、羅刹も同じく近付け、耳元で囁く。











――――――あなたは、不安にならないの?











問われて、京子は意味が判らず、羅刹を見返した。







「不安って、何がだよ?」
「違うの?」
「だから、何が」






掴めない真意に問い返せば、羅刹も聊か焦れたようだった。
もう一度顔を近付け、京子の耳に囁く。









「あなたと緋勇龍麻、恋人同士でしょう?」

「なッッ!!!」









羅刹の言葉に、差し出された替え玉を受け取った手が滑りかけた。
危うく美味いラーメンを一杯分損しそうになって、京子は慌ててドンブリをテーブルに置く。



確かに。
確かに、自分と龍麻は付き合っている。


ああ、だからオレじゃないと駄目だって言ったのか。


京子はようやく理解した。
どう考えても自分向きではない相談事を、何故こうして持ちかけられなければならなかったのか。
葵の方が良いと言うのに、羅刹がどうして、京子でなければ駄目なんだと主張したのか。

“彼氏”を持つのは、京子とこの羅刹のみである。
よって、拳武館の中での人間関係がどうなっているか知らないが、少なくとも羅刹にとって、京子以上の適任はいなかったのだ。






「あなたは、緋勇龍麻の事が心配にはならないの?」
「し、心配っつーか……いや、どうせアイツだしな……」
「もしかしたらと思わない?」
「別に。あいつの頭の中にあるのは、苺の事だけだし。……大体、オレがそんなの考えるガラじゃねェし」






龍麻の周りには、自然と人が集まる。
真神の女子生徒からも、それはそれはよくモテる。
本人には全くその意識がないが。

彼女という存在にとって、そんな彼氏の性質は、通常、不安の種になるものなのか。
京子にはそういう感覚すら薄かった。


龍麻がモテるからどうした。
あんなにぼんやりしている男の何処が良いのか、よく判らない(付き合っていて言う台詞ではないとは思うが、事実、自分でもよく判らないのである)が、それがなんだと言うのだ。
そんなのは、付き合う前から判り切っていた事だ。

仮に自分がそれを気にする性質であったとしても、黙って泣き寝入りするなど御免だ。
最悪、絶縁状を叩き付ける結果になろうと、目の前の不満は我慢しない事に限る。




実に男らしい京子であった。








「嫌われる事とか、別れる事とか、心配しながら付き合っちゃいねェよ。別れたくねェなら、オレがアイツの手綱握ってりゃいい話だ」








京子の考え方は基本的に極端だ。

だが、それで良いと思っている。
龍麻も、それが京子らしいと言った。


あれの手綱が簡単に操れるほど、容易い相手ではないとは思うが。
あれやこれやと思い悩んで泣き寝入りするより、そっちの方がずっと良い。




二杯目のラーメンに舌鼓を打つ京子を、羅刹はじっと見つめた。











そしてようやく、吹っ切れたように、それは綺麗な笑顔を見せた。







































羅刹がスープまで全て飲み終え、京子も二杯目を食べ終えた時。
ガラリと店の引き戸が開けられ、寒い空気が滑り込んできた。







「イラッシャーイ!」






コニーの声になんとなくつられて、京子は店の出入り口に目を向けた。

すると其処には、龍麻と、珍しいことに雨紋が立っていた。






「なんでェ、龍麻に雷野郎じゃねェか」
「さっき其処で会ったんだ。京も此処に来てたんだね。もう食べちゃった?」
「ついさっきな」






綺麗に平らげられた器を見て、そうみたいだね、と龍麻は笑う。






「羅刹、お前なんでこんな所に……」
「…………」






驚いたような声は、雨紋のものだ。
羅刹はほんのりと頬を朱色に染め、恥ずかしそうに目を逸らす。

雨紋はそんな羅刹に、何を言っていいのか――――という表情で頭を掻く。


京子は雨紋をちらりと一瞥すると、隣の羅刹の肩を叩く。






「んじゃ、オレ達は帰ろうぜ」
「………」
「ごちそーさん」
「あいヨ京チャン!」






戸惑った仕種を見せる羅刹に構わず、京子は羅刹の手を引っ張る。
雨紋を気にしつつも、羅刹はそれに従って京子に付いてきた。







「って訳で、お前ら勘定頼んだぜ」
「え?」
「はぁ!?」






擦れ違い様の京子の言葉に、龍麻はきょとんとし、雨紋は瞠目して声を上げる。






「おい蓬莱寺! なんで勝手にそうなるんだ!」
「いいじゃねーか、彼女の飯代ぐらい立て替えろよ」
「京、お金ないの?」
「あるけど、今日はお前が払え。たまには男を上げてみろってんだ」






京子の言葉に憤慨しているのは、雨紋ばかりだ。
羅刹はすっかり京子の勢いに飲まれていて、されるがままになっている。

龍麻は平静とした表情で、今月はちょっとキツいんだけどなぁ…と呟いている。
それでも駄目だとは言わなかったから、京子はさっさと店を出て行く事にした。


会話は全てコニーに聞こえているだろうから、何も心配する事はない。
常連だから、多少の額ならツケておいて貰う事だって出来るだろう。




店の戸口を開ければ、冷えた風が肌に突き刺さる。
ラーメンで温まったばかりの体には、それほど辛くはなかった。



羅刹を店から引っ張り出して、扉を閉めようとした直前。








「京」
「あん?」






呼ばれて手を止めれば、半開きの戸の向こうから、龍麻がひょっこり顔を出した。








「京、なんか楽しそうだね」
「……そうか?」
「そうだよ」
「…じゃあ、そうなんだろうな」







京子が笑うと、恋人の上機嫌が龍麻も嬉しかったのか、同じように笑う。
くすぐったくて顔に血が上ってきたので、それを知られる前に戸を閉めた。

雨紋の声がまだ聞こえていたが、そんなものは無視する。




立体の下層へ続く階段の手前まで来て、京子は手を掴んだままの羅刹を振り返る。






「これ位は、たまにはやっていいんだぜ?」
「…………」
「いいんだよ、アイツら彼氏なんだから」






普段は京子も、割前勘定で自分の食べた分は支払うようにしている。
でも、時々はこんな悪戯じみた我侭だってしたくなるのだ。

手綱を握っているのは、こっちの方なんだから。
向こうがどう思っているかは、知らないけれど。
少なくとも、自分はそのつもりだ。
















ありがとう、と。




小さな小さな声を、照れ臭くなって、京子は聞こえなかった振りをした。




















羅刹が個人的に好きで、一度でいいから彼女と京一でコイバナさせてみたかったのです。
でもうちの京ちゃん、男でも女でも、コイバナに向く性格じゃないですね(笑)。

アニメで彼女は殆ど喋っていないので、口調をどうするか迷い、結果こんな感じに。
そしてこの後、番外編弐話の痴話喧嘩が始まる感じで(止まれ止まれ)