Seaside school Z





祭りの中心になっていたのは、街の中で一番広い公園だ。
その中心に高櫓を建て、祭り堤燈に火が灯り、空の上から太鼓と囃子の音が鳴る。



公園までの道程を龍麻達は楽しんだ。


小蒔と遠野の要望通り、焼き蕎麦にリンゴ飴に綿菓子、他にもたこ焼きやとうもろこしを買って食べ歩いた。
スーパーボール掬いでは京子がムキになり、四回も挑戦し、一番大きなボールを掬ってようやく満足した。
龍麻も水風船を取り、醍醐はあれも食べたい、これも食べたいと言う小蒔に付き添い、すっかり荷物持ち状態になっていた。


途中で手製のお化け屋敷が設けられているのを見付け、京子は嫌がる醍醐も巻き込んで入ろうと言った。
醍醐の幽霊嫌いを京子はよくよく知っているが、そんな事など彼女はお構い無しだ―――――いや、寧ろ判っているからこそ押し込んだのである。
クジを作って二人ペアになって入る事になり、京子は醍醐に「小蒔と一緒になれるようにしてやる」と言ったが、醍醐は拒否した。
極度の幽霊嫌いの醍醐にとって、祭りの手製お化け屋敷でも、恐ろしいものであったのだろう。
情けない姿を彼女に見られるのは、流石に嫌らしい。

結局、小蒔と遠野、龍麻と葵、醍醐と京子と言う組み合わせになった。

スタートから出口まではものの五分で終わるお化け屋敷である。
それぞれ入れ替わりになって屋敷に入り、小蒔と遠野が終わり、龍麻と葵が外に出てから、醍醐と京子はスタートした。
程なく、悲鳴と爆笑が中から聞こえたのは言うまでも無い。


お化け屋敷を出て、ぐったりした醍醐の隣で、京子は終始腹を抱えて笑っていた。
意地の悪い京子を葵が諌めたが、その程度で彼女の笑いが収まる筈も無く。
あまりに京子が笑うものだから、一体醍醐は何にそんなに驚いたのかと、小蒔と遠野が興味を示し始めるから、醍醐は溜まったものじゃなかった。
醍醐の想いを知っているので流石にそれは伝えなかったが、京子は興味津々の小蒔に慌てる醍醐の様子にも、完全に面白がっている様子だった。


あそこの屋台が美味いとか、そこの屋台は主人が面白いとか。
クラスメイト達と擦れ違いながら、ついでに情報交換をして、六人はあちらこちらへ歩き回った。

そうしてホテルを出発してから三十分の後、祭りの中心となった公園へと到着する。






「凄い人だね」






賑やかな公園を見渡して、龍麻は呟いた。
隣から「そうだな」と短い返事が零れる。


恐らく、普段は運動公園として使われているのだろう公園は、今は人で溢れ返っている。
四方には出店が立ち並び、櫓の側にはステージが設けられ、町内会主催の出し物が披露されていた。
ステージの周りには椅子が用意されて、老夫婦が出し物を眺めていたり、子供がカキ氷を食べていたり、若者達が話し込んでいたりと、様々に祭りを楽しんでいる。

ステージから離れた場所でも、空いているスペースがあれば其処は溜まり場になる。
ピクニックシートを敷いて場所を陣取るサラリーマンの集団の中には、早々に酔っ払っている人もいた。






「本当に街ぐるみでやってるのね、この夏祭りって」
「凄いよね。あ、葵、あれやろうよ。輪投げゲーム」
「ええ。アン子ちゃんもどう?」
「やるやる!」






小蒔が指差した輪投げゲームに、三人は駆け寄っていく。
遅れて醍醐、龍麻、京子も足を向けた。

ゲームの景品はどれも些細なもので、子供が喜ぶのが精々なものであったが、祭りの雰囲気に乗せられてしまえば関係以ない。
スーパーボールも水風船も、取る過程が面白いのであって、商品の価値は今考える事ではないのだ。


一回につき5束の輪を二回分、六人で分け合う。
小蒔が三回、葵と遠野が二回で、龍麻、京子、醍醐は一回ずつ投げる事になった。






「あーッ、外した!」
「惜しい〜ッ」






猫のキーホルダーを狙う小蒔だが、結果は散々たるもの。
心底悔しそうな小蒔に、京子は自分の隣で苦笑している醍醐を突つく。






「取ってやれよ、醍醐」
「い、いや……俺は、こういうのは自信がないんだ」
「いいから取れって。出来ねェんなら龍麻が取るぜ」
「……僕?」






勝手な事を言い出す京子に、龍麻は首を傾げる。
京子は龍麻の反応などお構いなしで、醍醐を炊き付けようとしていた。






「感謝されんだろーなー、きっと。ありがとー、なんて言われたりとかな。龍麻なら嫌味にならねェだろうしよ」






確かに。
それが龍麻と言う人物である。

醍醐は特別龍麻に対して対抗心がある訳ではないが、こう言われるとやはり、それに似た感情は生まれてくる。
小蒔に情を寄せているが故に。






「ホレ、オレの分も使っていいから取れよ。で、婚約プレゼントにしちまえ」
「なッ!? ば、馬鹿か、そんな事!」
「なーに赤くなってんだァ? マジになったか?」






盛り上がっている三人を他所に、京子はとにかく醍醐を焚き付けようとする。
ついでに、自分の輪を押し付ける辺りは、子供っぽいこのゲームに乗り気ではないのかも知れない。

赤くなっている醍醐にニヤニヤとしながら、京子は輪を醍醐の頭に引っ掛けて、くるりと踵を返した。






「おい、蓬莱寺」
「下駄なんざ履くもんじゃねェな。足痛ェ。その辺で座ってらァ」






ひらひらと手を振って、京子は片足を庇うようにひょいひょいと歩きながら離れていく。
足が痛いと言うのは、満更嘘でもないようだ。

人ごみの隙間を通り抜けて離れていく彼女を見送り、仕方のない奴だな、と醍醐が呟いた。






「ラムネゲット!」
「凄いわ、アン子ちゃん」
「アン子、ボクのも取れる?」






夢中になっている仲間達の声を聞きながら、龍麻はじっと、京子が歩き去った方向を見ていた。


……離れて行く彼女の後姿が、いつもと違う印象に思えたのは、彼女の姿格好がいつもと違うからだろうか。






「醍醐君」
「ん?」
「僕のもあげる」






言うなり、龍麻は自分が持っていた輪を醍醐の手に押し付けた。
おい、と醍醐が呼び止めたのも聞かずに、早足でその場を離れる。





人ごみをすり抜けて速度を落とさず進んでいけば、離れたばかりの恋人の姿は直ぐに見付かった。





その辺りで座っている、と言った京子は、その言葉に反して、立ち尽くしていた。
人が行き交う祭りの只中で、一人足を止め、何処に向かうでもなく。


いつもは見る事のない、牡丹の咲いた浴衣を纏い、髪を結い上げた京子の後姿。
それはいつもの日常風景の中で見る、凛とした佇まいとは違う色を持っている。
周囲を行き交う浴衣姿の少女達と同じ衣装の所為か、それとも鮮やかながら不安定に揺らめく祭り堤燈の灯火の所為か――――龍麻には判らない。

数十分前に見た、ずっと顔を背けたまま沈黙していた京子を思い出す。
近くにいるのに何処か遠い、此処ではない何処かを見ているような彼女を。



さっきは手を繋いだら振り返ってくれたけれど、今度はどうだろう。
手を伸ばせば届く距離まで近付いて、龍麻は足を止めて、迷う。



楽しい筈の臨海学校で、どうして彼女が何度もこんなに遠く感じさせる事があるのだろう。
何が彼女の意識を奪っているのか、何がそんなにも彼女の琴線に触れるのか。
いつも目の前の現実を追っている彼女が、心此処に在らずになる理由は、一体何なのか。




立ち尽くす京子の後ろで、龍麻もしばし立ち尽くしていた。
かける言葉とタイミングを探して。


―――――それは、彼女の方から齎された。






「気ィ悪ィよな。気になる訳じゃねェけど」






呟いて、京子は振り返った。
向き合うと、京子は足元を浮かせて見せる。






「鼻緒、切れやがった」
「……あ、」






言われて視線を落としてみれば、確かに、右足の下駄の鼻緒が切れている。

だから立ち止まっていたのか――――そう考えてから、それも変だな、と龍麻は思う。
いつもの彼女なら、鼻緒が切れた程度、片足跳びでもしながら落ち着ける場所まで自ら移動するだろう。
それを、あたかも立ち尽くす理由にするなんて。


歩み寄った龍麻の肩に、京子の手が乗せられた。






「京、」
「動くなよ。ったく、面倒臭ェ……」






ブツブツと文句のような言葉を紡ぎながら、京子は足を浮かせて、鼻緒の切れた下駄を脱ぐ。


肩に手を置いた京子の顔は、龍麻から近い距離にある。
龍麻の視界の中で、彼女の明るい髪色が堤燈の灯に彩られて揺れる。
また、此方を見ない切れ長の眼差しにも、同じように緩やかな光が滲んでいた。

体重を預ける手は、いつも彼女が愛刀を握る手で、何も其処には変わった事などない筈だ。
しかし手首から浴衣の裾へと伸びる腕は、不思議と常よりも細く、か弱く見えた。
……そんな事を言ったら、きっと怒るだろうけれど。



肩にある彼女の手に、自分の手を重ねた。
京子は顔を上げない。
足元を見詰めたまま、鼻緒の当たっていた指の間を気にしている。


京子の指に引っ掛けていた下駄が、ことりと地面に落ちた。
京子は更に体を曲げて、落ちたそれを拾い上げようとする。

立ったままの龍麻に見えたのは、俯き屈んだ、彼女の後れ毛の跳ねる項だった。







「――――――う、ぉッ!」







重ねていた手で、彼女の腕を掴んで、引っ張った。
突然の事に驚いた声を上げ、京子はようやっと顔を上げる。

龍麻の急な行動の理由を、彼女は問う暇を与えられなかった。
先程と同じく、突然の浮遊感によって。






「龍、」






京子の背中と膝下に腕を通し、横にしてその体を抱き上げ、龍麻は立ち上がる。
落下を恐れて本能で伸ばされた京子の腕は、龍麻の首へと廻された。

京子の片手には、鼻緒が切れたままの下駄があった。
傍目に見れば、足元に不自由になった少女を、少年が運ぼうとしているように見える。
強ちそれは間違っていないのだけれど、龍麻が向かったのは、すぐ側にある椅子ではなかった。




走り出した龍麻に、京子は事態の急変について行けず、呆然と腕の中で固まるしかなかった。


































抱えた京子は、思いの他軽かった。
彼女が大人しくしてくれていたから、それだけが理由ではないだろう。

龍麻が彼女を抱える事は滅多になく、あったとしても京子は直ぐに暴れ出す。
だから彼女がこんなにも軽いのだと、知る機会がなかった。


武道家として、剣術によって鍛えられた体躯を持っていても、彼女はまだ十七の少女である。
龍麻と何も変わらない年頃であり、龍麻と決定的に違うのは性別だ。
骨も筋肉も、男とは違う作りをした、少女なのである。

それを普段全く感じさせる事がないのは、京子の立ち居振る舞いの所為だ。
男よりも男らしい言動を取り、剣術によって裏打ちされた自分への自信が、彼女をその体躯以上に大きく感じさせる。
だから吾妻橋らも彼女を敢えて「アニキ」と呼び、慕うのだろう。



腕の中で、京子は目を白黒させていた。
何がなんだか判らない、そんな様子で。

そんな京子を龍麻が腕から降ろしたのは、祭囃子の中心から遠く離れた、古びた神社の拝殿だった。






「―――――ぃてッ」






街を抜け、石造りの階段を登り、緋色の剥げた鳥居を潜り抜け。
龍麻は、もう奉られたものがあるのかすら判らない、参拝する人がいるのかも判然としない拝殿の外床に京子を降ろした。
走って来た疲れで半ば落とす形になった為に、京子は短い悲鳴を上げる。






「っつー……なんでェ、一体…」






下ろされた際に打った臀部を摩りながら、京子は眉根を寄せて恨めしげに呟く。
顔を上げると、彼女はじろりと龍麻を睨み付けた。

―――――が。






「んッ……!?」






何事かを言おうとした唇は、音を飲み込まれて塞がれた。
龍麻の唇によって。

噛み付くように口付けた所為で、龍麻は京子を寂れた板の上に押し倒す事になる。
ぎしりと古びた板の軋む音がしたが、構わず、龍麻はキスを深いものへと繋げていった。
京子は何が起きたのか判っていないようで、瞠目し、されるがままに固まっている。


どうすべきかと判断出来ず、彷徨う手首を捕まえて、床に押し付けた。






「ん、ん……ッ」






息苦しさからだろう、京子がゆるゆると身動ぎした。
それに気付いて、ほんの少しだけ唇を離し、彼女が酸素を吸い込むと、また直ぐに口付ける。

ちゅく、と水の音が鳴って、京子がぎゅうと固く目を閉じる。
顔が緋色に染まっていくのが見えた。


キスを止めても、龍麻は京子から離れようとしなかった。

唇の形を確かめるように舌でなぞると、いやいやするように京子の首が仰け反った。
今度は其処に舌を這わすと、掴んだ腕が抵抗しようと捻られる。
足元もジタバタとしているようだったが、開放的なスカートではなく、浴衣を帯で確りと固定している所為で、足元はまるで彼女の自由にならなかった。





「んぁ…ッ…や…龍麻ッ……」
「京……」






浴衣の衿合わせから覗く鎖骨にキスをする。
かかった吐息に、ピクン、と京子の肩が跳ねた。


京子の手首を解放して、龍麻は浴衣の帯に手をかける。
いつもなら其処で待ったの声がかかる事が多いのだが、今回はそれはなかった。

京子は腕を解放された事にも気付いていないのか、そんな事にも頭が回らないのか。
赤い顔で宙を仰ぎ、艶の篭った吐息を漏らす彼女は、今ばかりは完全に無抵抗な状態だ。


葵が着付けをしたのか、綺麗に整えられている帯の解き取り去ると、衿が開いて京子の胸元が露になる。
和装の為にとプラジャーを着用していなかった彼女の胸は、無防備に男の前に晒された。
ふくよかな胸の谷間に、じんわりと汗が滲んでおり、京子の躯が火照っているのを龍麻に教えてくれる。


木目細かな肌に左手を滑らせて、龍麻は右手を京子の首に当てる。
ゆっくりとその手を後ろへと廻し、やがて項に辿り着いた。






「ん……ッ」






後れ毛の遊ぶ生え際に指を這わせながら、龍麻は京子の浴衣を肩から落とす。
夏の夜風に当てられたか、細身の肩がふるりと震える。






「ちょ…龍麻…ッ」
「京、きれい」
「…あッ…!」






耳朶を柔らかく食むと、甘い声が零れ落ちる。






「ん…っは……なん、だよ…いきなり……ッ」
「うん……」
「んんッ…!」






途切れ途切れの京子の問いに、龍麻は答えなかった。

また京子を床へと寝かせ、露になった乳房を柔らかく揉む。
京子の呼吸が性急に上がっていくのが見て取れた。






「あッ…、あ、…あんッ……!」






見下ろした京子の瞳が、亡羊とした熱に浮かされているのが判る。
彼女は、今正に熱に飲まれようとしていた。



――――この臨海学校に来てから、同じような雰囲気になった事は何度かあるけれど、それ以上にはならなかった。


一昨日の夕暮れの海岸と、昨日の磯部で、二人きりになった時。
意図してしようとしていた訳ではないけれど、どちらともなく、行為を求めていたと思う。
しかし一昨日は龍麻が帰りを促し、昨日は互いの熱を高めておきながら途中で投げ出す結果となった。
そのどちらも、京子にとっては辛い形ではなかっただろうか。

そんな彼女にとって、今この瞬間は、待ち侘びた行為であるのかも知れない。
いつもはある筈の抵抗が碌に見られないのは、それも理由の一端となっているだろう。






「乳首、固くなってる……」
「はんッ…!」
「コリコリだね」
「あッ…あッ、あッ、……やぁ…ッ」






ツンと膨れた先端を指で摘んで捏ねる。
ヒクン、ヒクン、と京子の体が跳ねた。


京子同様に龍麻の吐息にも熱が篭る。
それが乳頭に当たるのがむず痒く思えて、京子は眉根を寄せて耐えるように目を閉じた。

尖った先端を舌先で弄りながら、龍麻の手は形が変わるほどに京子の柔らかな乳房を揉みしだく。
京子は仰け反った姿勢でその快感を享受し、唇を戦慄かせて鳴いた。






「はッ、んぁ……あぅん……ッ」






子供がいやいやをするように頭を振る京子。
龍麻はそんな恋人に小さく笑んで、胸元から顔を離すと、京子の唇にキスをする。






「ん……」
「ん…ッ、んッ…ぅん……んん…」






逃げる京子の舌を追い駆けて、龍麻の舌が奥まで侵入していく。
歯列をなぞれば京子の細い肩が跳ねて、京子の腕が悶えるように固い板の上でもがく。


ぷくりと膨らんだ乳頭を指先で突かれ、京子の喉奥に短い悲鳴が零れた。






「っは……」
「んぁッ……あッ、や…やん……ッ…」






汗ばんだ鎖骨に舌を這わせれば、京子の背をぞくりとした快感が昇る。
床に散らばった浴衣の袂を握り締めて、京子は耐える。

耐える様さえ、龍麻には誘われているように見えて。
そう思う辺り、自分も思っていた以上に耐え兼ねていたのだと知る。
目の前にいながら、重なり合うことのなかった肌に、餓えていたのだと。


乳房で遊んでいた手をゆっくりと下ろし、浴衣の袷を捲る。






「! バカッ……!」






咄嗟に我に返った京子の手が、開かれようとした袷を掴んだ。

そんな京子を龍麻が見上げれば、真っ赤な顔で唇を噛んでいる。
暗がりにも紅いと判る顔は、彼女が心底恥ずかしがっているのだと知れた。


構わず、龍麻は京子の太腿を抱えて足を開かせる。
京子は固い床に転がされる形になったが、未だ袷を掴んだままで背中を丸めている。
縮こまっているような姿が、常とは違って可愛らしく見えて、龍麻は京子に気付かれないように小さく笑んだ。






「ん……ッ」






此方は流石に下着を履いており、飾り気のないスポーツ仕様の下着があった。
龍麻はその薄い布越しに双丘に舌を這わす。

袷を握る手に力が篭り、京子は眉根を寄せて息を呑む。

唾液で下着が透けるほどに、丹念に舐める。
ぴちゃり、と小さく音がするようになって、京子は袷を掴んでいた手を離し、代わりに龍麻の頭を掴む。
恐らく恥ずかしさから引っ張り離そうとしているのだろうが、その腕には碌な力が入っていない。
傍目には添えられた形となった手をそのままに、龍麻はちゅる、とわざと音を立てながら秘部を刺激した。






「やッ…あ、あッ、あ…」
「濡れてる……」
「ンなの……お前、がッ…そんな、するから……ッ」






抗議の声が上がったが、既に京子の陰部は蜜を漏らしている。
言えば、きっと全力で否定するだろうけれど。






「んッ…ひぅ、あん…ッ」







双丘の窪みをなぞる度、京子の脚がピクン、ピクンと跳ねる。
日焼けした太腿に手を這わせながら、ゆっくりと下着を取り除いた。
京子はその様を見まいとするように、固く目を閉じている。

片足が抜けた時点で、龍麻は意識を京子へと戻す。
京子の右足にのみ、下着は引っ掛かった状態となった。


京子の浴衣の帯が緩んで、袷が弛みを作って肌蹴ている。
廃寺の下で崩れた着物を纏う少女は、何処か現実離れした艶を感じさせた。






「……ジロジロ見んな」






言われて、龍麻は自分がじっと京子を見詰めていた事に気付く。
紅くなって睨み付ける京子に、龍麻は小さく笑んで口付けた。






「だって京、キレイだから」
「……脳外科行け。さもなきゃババアのとこで入院して来い」
「酷いなぁ」






いつも通りの憎まれ口に、龍麻は眉尻を下げた。
特に傷付く訳でもなく。

龍麻が言ったのは本当に思った事で、京子もそれは判っている。
判っているから、京子はこんな事を言わずにいられないのだ――――恥ずかしくて堪らないから。


赤みの抜けない京子の頬にキスを落として、細い肩を抱き寄せる。
露になった秘部に、まだ収めたままの雄の昂ぶりを布越しに押し付ければ、抗議のように京子の手が龍麻の髪を引っ張った。

性急にベルトを外してスラックスを下着ごと下ろせば、膨らんだ雄が顔を出す。
龍麻は、京子の両足を掴まえると、京子の躯を折り曲げるように持ち上げた。
色付いた秘部が京子にも見える状態で、龍麻は其処に自身の熱の塊を擦り付ける。






「やッ、あッ、あんッ! はぅ、ひぃッあ……!」






龍麻によって官能を高められた京子の躯は、敏感な箇所である薄い皮膜からの刺激に従順に反応する。

薄く瞼を開けて喘ぐ京子の目には、己の秘部と龍麻の雄が擦れ合う様が映っていた。
恥ずかしさで見たくない筈なのに、どうしてか見てしまう。






「あッ、…あ、あッ……」






自身の秘所口を擦る熱棒の様を見て、京子の瞳もまた、熱でとろけて行く。






「や、ん…あッ…あん……あぁッ…!」






ふるふると京子の躯が震え、時折、痙攣を起こしたように彼女の脚が跳ねる。
その脚を片方掴まえて、龍麻は自分の肩へと引っ掛ける。

蜜に濡れた秘所に宛がえば、求めるように京子の腕が龍麻の首へと回された。
応えるように、龍麻の右腕も京子の首へと回され、後れ毛が遊ぶ項に触れる。
髪の生え際と言う微細な箇所に触れられて、ヒクンと京子の頭が一度仰け反った。


先端が入り口を潜り抜ける痛みと快感に、二人の高い声が上がる。






「あッ……!」
「う…ん…ッ」






龍麻にしがみ付く京子の腕に力が篭る。

龍麻は呼吸を意識しながら、ゆっくりと奥深くへと自身を沈めて行った。






「あぅッ…、あん…! おっき…ぃ……んぁあ…!」






縋り付く京子の零れる吐息を、龍麻は耳元で聞いていた。

紅い顔で熱にうなされて紡がれる無意識の言葉にも、龍麻は煽られる。
そのまま一息に貫いて、本能に従うままに京子を貪りたい衝動に駆られた。
それをなんとか堪えて、殊更にゆっくりと、龍麻は京子の熱を味わう。






「ん、ん、ぅ……龍麻ァ……」
「ん……ふッ……」






強請るように名を呼ぶ京子に、キスをする。
繋がりと同じく不覚なる口付けに、京子は彼女にしては珍しく積極的に応えた。






「ふッ、んう、ふはッ……あッ、あッ、あぅううう…ッ」






唇を解放すると、京子は仰け反って悶絶する。
根元まで挿入された雄が彼女の弱い部分を突いたのだ。


雄を浅く抜き差しすると、京子は敏感な場所を攻められて躯を震えさせる。
全身に微弱な電流が流れたような快感だった。






「ひッあッ、あッ、あうッ、んあッ! ひゃめッ、らめェ…!」






ビクッ、ビクッ、と龍麻が腰を突く度に、京子は背を反らせて跳ねた。
彼女の内部も、同様に痙攣を起こしたように締め付け、龍麻に刺激を与える。


呼吸もままならない程に喘ぐ京子に対して、龍麻の呼吸は上がって行く。

廃寺の古びた板張りの床がギシギシと音を立て、その隙間に風が吹いて周囲の木々をざわめかせる。
外で―――それも碌に見知らぬ土地で―――行為に及んでいる事実が、二人の興奮を更に高まらせた。
龍麻の場合は、京子の浴衣姿と言う、いつにない情景に更に。






「あう、あんッ…はふッ……そこッ…そこ、やぁ…!」
「うそつき」
「ふぁッ!」






訴えるような京子の言葉に、龍麻はくすりと笑んで囁く。
嘘を吐いたお仕置きでもするように京子の耳朶に歯を立てると、京子の肩が大仰に跳ねる。
呼応するように秘部が雄を締め付けた。

そのまま耳朶に舌を這わせると、京子は熱に熟れた瞳をぼんやりと揺らして、小刻みに震えた。






「らめ…あッ…あ…ん、ぁん……」
「感じる?」






問い掛けながら項を撫でると、また秘部がきゅうと締まる。






「京、ここ好き?」
「やッ……!」
「うそつき」
「あッ、あッ…! ん、やらぁ……さわ、ん、なァ……!」






耳朶を甘噛みしながら、項に指を這わせて。
すると、京子は微細な快感から逃げようとするかのように、龍麻の首に強くしがみ付いた。


挿入時に龍麻の肩に置かれていた京子の脚は、いつの間にか落ちていた。
帯の緩みで肌蹴た浴衣の裾から、すらりと伸びる日焼けした脚。
その太腿は秘部から零れた蜜に濡れており、股の間には男の欲望が深く穿たれている。

龍麻は更に奥を目指すように、京子の腰を掴んで強く引き下ろす。
京子は胡坐になった龍麻の上に乗る形で、彼の熱を体内深くに享受した。






「あぁあああ………ッッ







甘い悲鳴が夜の廃寺に響く。

龍麻は下から突き上げるように、京子を攻めた。
されるがままに躯を揺さぶられながら、京子は喘ぐ。






「あッ、あんッ、深いィッ んぅ、あふッ、はッ、ひんッ






ぬぷ、じゅぷ、と卑猥な音が二人の接合部から聞こえる。
その音を聞く京子の耳を龍麻の舌が這い、また同時に首の後ろも指が遊んだ。






「触る、なッ、てェ…あッ!」
「だって折角結ってるんだし」
「んぁ、ん、あんッ、あんッ ふぅんッ! ひぅ、あぁあッ!」






抗議も気にせずに触れ続ける龍麻に、京子は弱々しく首を横に振る。
目尻に薄らと透明な雫が浮かんでいるのを見つけて、ちょっと意地悪だったかな、と龍麻は少しだけ反省する。

それならばと、浴衣が落ちて露になった背中の中心線をなぞってやる。






「あぅんッ






項に触れていた時と同様に、京子は背を反らせ、龍麻の指から逃げるように腰を前へと進める。
より強くなった繋がりと、締め付ける力に、龍麻はまたクスリと笑んだ。






「何処触っても感じるね」
「あッ、あんッ! ン、な事…ねェ……ひぁん!」






否定する京子の体内を突き上げる。
悲鳴が上がって、跳ねた京子と龍麻の間で豊かな乳房が揺れる。

そのまま、龍麻は一気に上り詰めようと激しく腰を揺さぶった。






「ひッ、あぁッ、らめェッ! や、ん、あ、あぁん! あんッあんッ ひッ龍麻ッ…、ゆっくりィ…!」






涙ながらに訴える京子だったが、律動は止まらない。


京子の背を抱き寄せて、龍麻は膨れ上がった乳首に吸い付いた。
無防備になっていた箇所への攻めを突然再開されて、京子は悲鳴とも取れる嬌声を上げる。







「やぁ、吸うなぁッ!」
「んん……ッ」
「あう、んッ、龍麻ッ…! ひゃめッ、あッ、ひゃうぅッ






京子の必死の抗議など、最早龍麻の耳には届いていない。

そして京子も、獣の本能に駆られた恋人に自分の叫びが聞こえるとも、到底思えてはいなかった。
ただ未だに慣れないのだ――――脳髄まで熱に侵されて、全てが真っ白になる瞬間が。


龍麻の激しい腰の突き上げに、京子は爪先を丸めて躯を震わせる。
秘部が痛い程に龍麻の雄を締め付けて、絶頂が近い事を知らしめていた。

同じように、龍麻も。






「あッ、らめ、らめェ イく、もうイくぅッ! 龍麻ぁああッ…!」
「う……京ッ、…出る……ッ」
「イっちゃうぅぅぅぅッッッ!!!」






ビクン、ビクンと全身を大きく戦慄かさせて、京子は達した。
同時に躯と呼応するように皮肉は痙攣し、龍麻の雄を一番強く締め付ける。

肉壁の吸い付きを振り切って、ずるりと龍麻の雄が京子の躯を抜け出る。
その擦れる感覚すら京子には快感で、絶頂直後の敏感な状態で、嬌声を我慢できる訳もなく。
常よりも一際高い恋人の声を聞きながら、龍麻は京子の蜜口へと熱を吐き出した。








それから、二人抱き合ったまま、暫くの間はただ荒い呼吸だけが廃寺に木霊して。

どちらともなく床に落ちると、そのまま意識を手放していた。































龍麻が目を覚ました時、京子は既に起きていた。



乱れていた浴衣は、帯は緩ませたまま、羽織るように袖を通しているだけらしい。
目線は遠く空を見ていて、龍麻は廃寺に来る前の彼女の様子を思い出した。


―――――けれど。

ひゅぅ、と高く長い音が聞こえた後、どぉん、と空気を揺らす低い音が響いて、空に大輪の花が咲く。
ああ見ていたのはこれか、と納得する。




京子は龍麻に背を向けて座っていて、どうやら龍麻が目覚めた事には気付いていないようだ。
空に咲いて散る花々に夢中になっている、と言う訳でもないようだが、意識は確かに其方へ向いている。
振り返る様子はなかった。



龍麻は、音を立てないようにそっと起き上がった。
廃寺の床板は、少し動くだけであちこち悲鳴を上げるのだが、今回は無事に一つも鳴る事はなく。

花火を見つめる京子の背中へと、ゆっくりと手を伸ばす。
肩に触れかけた手を一瞬止めて、龍麻は少し場所を変えた。
髪を結い上げ、露になっている後れ毛が遊ぶ項へ。


指先が触れて、京子の肩が跳ねる。






「―――――ッ!」






勢い良く振り返った京子の顔は、紅い。
龍麻が起きた事に気付かなかった事と、情事の時に散々弄られた場所に触れられた所為だろう。

朱色に染まった頬で睨み付ける京子に、龍麻は笑いかける。






「おはよう」
「…………」






のほほんとした挨拶に、怒気を削がれたか。
京子は暫く龍麻を睨んだ後、ふいっとまた前を向いて花火を見上げる。
しかしまた触れられる事を警戒してか、右手は項を隠していた。






「そんなに触られたくない?」
「……痒くなる」






色気のない返事だ。
京子らしい。

くすくすと龍麻が笑うと、京子は肩越しでじろりと睨み、やはりまた直ぐ前へと向き直った。


痒くなる、なんて言ったからだろうか。
それとも、言った手前か。
本当に痒くなったように、京子は項をカリカリと掻き始める。

そういう事をするから、余計に触ってみたくなってしまうのだ。
あまり怒らせると、触る触らない以前に近寄らせてくれなくなるので、今はもう触らないけれど。



むず痒そうに髪の生え際を掻きながら、京子は長い溜息を吐く。
それがなんだか、何かを億劫そうに感じているように龍麻には見えた。






「どうかした?」






問い掛けると、また肩越しに彼女の瞳が龍麻を見る。
今度は睨んではいない、ただ見ただけだった。
見ただけではあるけれど、其処には確かに、彼女の感情が宿っている。

胡乱げな色をする瞳をじっと見つめ返せば、また京子の口から溜息が漏れる。
項から手を離してぱたりと床に落とすと、京子は前へ――――花火の空へと視線を戻し、






「……あんまり好きじゃねェんだよ、夏祭りってのは」






空を見上げながら呟かれた言葉は、意外と言えば意外なものだった。



京子は祭り騒ぎを嫌いではない、寧ろ好きだと言って良い。
その騒ぎに積極的に参加する事はなく、寧ろバカバカしいとか面倒臭いとか、グダを巻いている事が多いが、祭り自体は楽しんでいる事が多かった。
今日も出店を回っている時の彼女は、十分楽しそうに見えた。

そんな彼女が“夏祭りが嫌い”なんて思えない。






「じゃあ、無理に参加する事なかったのに」
「……どの口が言う」






誰の所為で参加する羽目になったんだ、と。
睨み付ける京子に、ああそうだったと龍麻は思い出す。

ビーチフラッグの勝負で、夏祭りに浴衣を着て欲しいと言ったのは龍麻だ。
あの時渋い顔をしたのは、浴衣を嫌がってのものだと思ったのだが、実は“夏祭り”も引っ掛かっていたのかも知れない。


でも、嫌なら嫌でちゃんと言ってくれれば、龍麻も無理を通すつもりはなかったのに。
だって最初から駄目で元々のつもりで言ったのだ。
承諾された時には龍麻だって驚いた。






「でも、命令でも絶対やらないと駄目なんて言ってないよ」
「ルールはルールだろ。あそこでそんな事言っても興醒めするじゃねェか。それに、どっちにしろ小蒔とアン子がいるんじゃあな」






嫌だと言ったら言ったで、彼女達はまた京子を祭りに引っ張り出しただろう。
仲間同士の楽しい思い出を作って、京子に夏祭りを好きになって貰いたいと言う好意から。
それはそれで、京子にはむず痒かった。


……龍麻には、京子が本当に夏祭りが嫌いだなんて、やっぱり思えない。
思えないけれど、彼女にも色々と思う所があるのだろう。
それが今日の祭りの道中でちらりちらりと見え隠れして、龍麻がそれに気付いただけ。

無理に楽しんでいた訳でもないようだから、やはり祭りや、あの雰囲気が嫌いな訳ではないのだ――――恐らく。






「お祭り、戻る?」






返ってくる返事がどちらであるのか、龍麻には判らなかった。


好きじゃないと言っているし、億劫そうな溜息を漏らしているから、戻りたくないと言っても可笑しくない。
出店は一通り巡って、花火は意外な穴場から見る事が出来たから、これはこれで夏祭りを十分堪能した事になる。

何より、これは肌を重ね合わせた所為だろう、彼女は見るからに体が重いようだ。
そう言えば下駄の鼻緒も切れたままだった、と龍麻は今更になって思い出す。
突然仲間達の輪から外れて、恋仲の二人が姿を消したと言う事実も、京子にとっては気が進まなくなる理由の一つになる。



……けれども。








「………戻んねェと、葵がうるせェだろ」












一際大きく開いた空の花を見上げて呟かれた言葉が嬉しくて。



きっと今日だけになるだろうからと項にキスをしたら、即座に肘が龍麻の胸を打った。


















長いッ!! エロに時間かけすぎたかしら……(汗)
上手く切れる所がなかったんですι

夏祭り、浴衣、廃寺でえっち……王道パターン!!(そうか?)
京ちゃんの項にムラっとするのは私です。後れ毛いいよね。