それは、森の奥に咲く花のように 甘い香りを振り撒いて、沢山のヒトを惑わせる Sexual stimulant -perfume- 前編 金曜日の朝。 これから学校へ行こうとした時、京子は店のテーブルに置いてある物に気付いた。 「……なんでェ、こりゃ」 京子の手の中にすっぽりと収まる程度の大きさの、洒落た小ビン。 中に入っているのは透明な液体だったが、恐らく、水ではないと思う。 蓋を開けることもせず、京子はそれを掲げたり裏返したりして、ただ眺めていた。 別段気に入ったとか言う訳ではなく、普段其処にないものだったから、興味を惹かれたのだ。 いつもは存在しないコレは、一体誰の何であるのかが気になって。 小ビンの一面には成分表らしきものが書かれたシールが張ってあったが、全て英語。 英語担当がクラス担任教師である京子だけれど、生憎、英語は毎回赤点と追試の嵐だ。 読める訳もない。 さっさと置いて学校に向かっても良かったが、時間はまだ余裕があった。 だからこうして、正体の判らない液体の入った小ビンを眺めている。 その液体の正体を教えてくれたのは、アンジーだった。 「ああ、其処にあったのね」 「…アンジー兄さん、コレなんだ?」 やって来たアンジーがほっとした顔をしたので、訊ねてみる。 多分、彼女はこれが何であるのか知っているのだ。 アンジーは直ぐに答えてくれた。 「香水よ」 言われて、京子は初めて蓋を開けた。 甘い匂いが漂う。 間近で嗅いだそれは強い芳香を放っていて、京子は判り易く顔を顰めた。 臭ェ、と京子は言わなかったが、そう言い兼ねない程の表情だ。 クスクスとアンジーが笑い、受け取った香水の蓋を閉じる。 「京ちゃんは香水に慣れてないから、これはちょっとキツいかもね」 「……鼻曲がりそうだぜ……」 「ふふ。結構良い匂いなのよ?」 全然、と京子は首を横に振る。 アンジーは最初はそんなものかもね、といつもの笑みを浮かべるだけだ。 「そうだ。ねェ、たまには京ちゃんもつけてみましょうか」 「あ? ……いらねェよ、そんなモン」 「いいじゃない。今日だけでも、ね?」 素っ気無い反応も気にせずに、アンジーは京子の背中を押し、店の中心に鎮座するソファに座らせる。 時間も余っていることもあってか、京子は断るタイミングを逃した。 さっきみたいな強い匂いは嫌だと、取り敢えずそれだけは主張しておく。 アンジーは店の奥から幾つかの香水を持って来た。 その殆どが成分表を英語で表記していて、京子は何が何だか全く判らない。 星の形のビンやハートの形をしたビンにも、特に感慨は沸かなかった。 案外凝ってるモンなんだな、と言う程度のものだ。 街中のショッピングモール等ではしゃぐ女性達のようにはいかないのである、この少女は。 渋い顔で一つ一つを覗いている京子を、アンジーは気に留めなかった。 ずっと彼女のことを見ているから、気乗りしないであろうことも予想の範囲内のことだ。 「京ちゃんのイメージだと…どれかしらねェ」 「どれも違うだろ……」 何処か嬉しそうに選ぶアンジーに、京子は小さな声で呟いた。 楽しそうにしているのを邪魔する気はないが、そんなにノリノリになられても困る。 「これにしてみましょうか」 言ってアンジーが手に取ったのは、一番飾り気の少ないシンプルな小ビン。 蓋を開けたそれに京子が顔を近付けると、仄かに甘い香りがした。 何が自分に合うのか京子には全く判らないが、アンジーはこれが良いと決めたらしい。 「アンバーの香りなのよ」 「……ふーん」 アンバーってなんだ。 出掛かった質問をどうにか飲み込む。 聞いてもきっと一日だって覚えていられない。 その後もアンジーは色々と説明してくれたが、京子はまるで頭に入らなかった。 判らない単語も多いし、覚えても意味がないと既に放棄しているからだ。 一頻り説明を終えると、アンジーは京子の横髪を少し持ち上げた。 耳の後ろにアンジーの指が触れた。 「ンなトコにつけるのか?」 「此処にすると、ほんのり香るのよ。香りが強いのは嫌でしょうから、今日は此処で、ね」 「……ま、オレぁ何処でもいいよ。よく判んねェし」 出来れば、何処でも遠慮したいのが本音である。 しかしそれを言ってはアンジーも詰まらないだろう、第一言う位ならさっさと学校に行けば良かったのだ。 普段色々と世話になっている人達なのだから、これ位は付き合わなければ悪いだろうし。 しゅっしゅっと小さな音がして、耳の後ろに冷たい水滴が吹きかかる。 「……そういや、ガッコ大丈夫なのか? これ」 「そんなに目立つ匂いじゃないから、問題ないわよ」 耳の後ろに指を当ててみる京子だったが、特に変わった様子はない。 触れた指を嗅いでみれば、確かにほんのりと甘い香りがした。 香水をつけて登校する生徒は、クラスメイトの中にもいる。 それ程強い匂いでなければ、マリアは特に何も言わなかった筈だ。 他者からしてどれほど香るものなのか、全く判らない。 しかしアンジーが大丈夫だと言うなら、多分そうなのだろう。 直ぐに落としてしまうのも少し勿体ない気がするし。 そうして、京子は生まれて初めて香水をつけて、学校に登校することとなった。 学校は特に問題なく、マリアに注意されることもなく過ごすことが出来た。 唯一うんざりした事と言えば、京子が香水をつけていると聞いて「一体何事!?」と問い詰めてきた遠野の事か。 遠野があれだけ騒ぐから、それまで「珍しいね」で済んでいた小蒔と葵までもが興味を持ち始めたのだ。 彼女の影響力は全く持って恐ろしい。 新聞部とは、中々敵に回すものではないのだ。 ちなみに、一番最初に匂いに気付いたのは龍麻だ。 ホームルームが終わった後、何気なく話をしていたら、突然顔を近付けられた。 ともすれば唇が触れ合いそうな位に近かったが、京子はそれを気にする事はない。 そんな仲でもないし、龍麻が何を気にしてそんな行動を取ったか、今日は心当たりがあった。 案の定「甘い匂いがする」と龍麻は呟いて、その時に京子は香水をつけている事を明かした。 自分の意思ではない事もきっちりと付け加えて。 香水の何が良いのか京子は知らないが、どうやら龍麻は、この甘い香りが気に入ったらしい。 今日は終始一緒にいて、何かと匂いを確認するように京子の顔を近付けていた。 吾妻橋達は香水などまるで知識ゼロであったが、「なんかイイ匂いしやすね」と言っていた。 他にも、クラスの男子から妙に声をかけられて、実はかなり強い匂いがするんじゃないかと一度気になった。 龍麻なら微かな香りでも気付きそうなものだが、他の生徒の感覚は、彼と違って一般並の筈だ。 遠野にそれを言ったら、はっきりする匂いじゃなくても勘付く事はある、と言われた。 弱い香りであっても、気付く人は気付くし、気付かなくても少し雰囲気が違って見えたりする事はある。 また香水の香料成分によっては、男性を引き付ける作用を持つものもあるらしい。 胡散臭ェ、と京子は言ったが、案外バカに出来ないものなんだと遠野に主張を返された。 遠野の話では、有名な海外メーカーの香水で、それなりに値の張る上等のものらしい。 匂いだけでよく其処まで判別できるものだと、京子は少しだけ感心した。 …やっぱり、香水そのものに興味はなかったけれど。 その日、小蒔、葵、遠野の三人の話題は香水に関することで持ち切りだった。 京子は知識もなければ興味もないので、其処には加わっていない。 放課後の帰り道。 相変わらず龍麻は京子の隣にいて、ずっと匂いを気にしている。 「……そんなに気にするモンか?」 「だって普段つけてないし」 「…まぁ、そうだな」 何度も確認するような仕種を見せる龍麻。 少々しつこい気はしないでもなかったが、言うだけこの相棒には無駄だろうと思った。 それに、自分も龍麻が普段と違うことをしていたら気になるだろう。 例えば苺の話をしないとか、苺牛乳を飲んでいないとか……遠野ではないが、「何事?」と思うのは確かだ。 「それに……なんだか気になるんだ」 「だから、そりゃ普段してねェからだろ?」 「うん。そうなんだけど、ちょっと違って…気になるんだ」 言葉を探って、結局同じ言葉に戻ったようだ。 よく判らないが、龍麻にしては珍しく、苺以外で随分気になる代物だったようだ。 この香水というものが。 「しかし、結構残るモンなんだな、香水の匂いってのは」 香水をつけたのは今朝のこと、学校に登校する前だ。 あれから半日が経つと言うのに、龍麻は未だに気にしている。 香水の匂いの持続時間なんて知らない。 でも、神社仏閣で焚かれる香だって、こんなに長く香りが残ることは少ないんじゃないだろうか。 液体のたっぷり入ったビンを開けた時も、仄かな香りがしただけだった。 吹き付けてからも、その箇所を触った指を嗅いだりしてみなければ、京子に匂いの確認は出来ない。 龍麻も随分顔を近付けてくるから、それ程強い匂いはしない筈なのだけど―――――それとも、京子が思うよりも周りには香るのだろうか。 香水を吹き付けた耳の後ろに指を当てながら呟いた京子に、龍麻は少し考えるように首を捻り、 「でも、もうあんまりしないかな。全然しないって事はないと思うけど」 言って、龍麻は京子の耳の後ろに触れた。 あまり人に触れられるような場所ではない。 龍麻の指先が触れた瞬間に、ほんの少し京子の肩が跳ねた。 「イイ匂いだよね」 「ンなこと、オレは知らねェよ」 「本当だよ。僕はこの匂い、好き」 耳元で囁かれた。 息が当たってくすぐったい。 やめろよ、と言ったが、京子のその声は面白がっている色があった。 龍麻もくすくすと笑っていて、傍目に見れば親密な男女の内緒話に見える。 本人達にはまるでそんな気はなくて、いつものスキンシップの延長のようなものだった。 ……しかし周りからすれば、どう考えても特別な間柄をしているように見えるもので。 「そろそろ良いかな?」 割り込んだ声に二人が顔をあげれば、着物姿の男が腕を組んで立っている。 動揺するでも、慌てるでもなく、龍麻と京子は平然としたもので、龍麻は京子から顔を離す。 それからごく自然に、「じゃあね」と別れの挨拶をして角を曲がって行った。 残された京子は、しばらく龍麻を見送る形をしていたが、ふと違和感を感じて振り返る。 八剣はじっと此方を見ていて、その瞳はいつも通りの色をしているように見えた。 が、何かが引っ掛かるような気がして、それなのに京子はが違和感の正体を見つけられずに頭を掻く。 乱暴なその手癖に、八剣が目を窄めて腕を取った。 「痛むよ」 端的に述べられた言葉の端に、京子はまた違和感を覚える。 八剣は妙に京子の髪に執心している所がある。 きちんとトリートメントすればもっと綺麗になるよ、とよく言う。 しかし京子は面倒だと言う理由で、いつもそれを蹴っていた。 かと言って八剣は別段怒る様子もなく、ただ勿体ないと一言呟くだけで、後は押し付けもしない。 言うことだけを止めずに、京子も最早その手の台詞には馴染みを覚えた程である。 ……だからこの言葉はいつもと同じ筈なのに、妙に空気感が違うような気がして。 「なんでェ」 「うん?」 「言いてェ事あんなら、さっさと言えよ」 木刀を肩に担いで、腰に手を当てて言う様は、なんとも男らしい。 逃げも隠れももしない、そんな格好。 八剣はしばらく沈黙していたが、クスリと笑う。 けれども、笑ったのはほんの一瞬のことで、直ぐに眉尻が下げられた。 「仲が良いよね。いつもの事だけど」 「………龍麻か?」 確認しつつ、それしかないだろうなと京子も思う。 龍麻は話し易い。 京子は他の女子と繋がるような話題にはまるで興味がないし、男達の“バカな話”も他の女子のように、やらしいだの不潔だの思わないし、はっきり言ってどうでも良いと思う。 そんな京子にとって、何を考えているのかいまいち判り難くても、龍麻と言う存在は気が楽だった。 京子を女扱いする事もなく、構えるような相手でもないから、京子はごく自然な形でいられるのだ。 ―――――他の人間では、中々そうは行かない。 そんな事は八剣だって知っている。 何を今更言い出すのかと、京子は首を捻った。 「内緒話でもしてたのかな?」 「……ああ、さっきのか。ンなモンじゃねェよ」 「じゃあ何?」 やけに突っ掛かってくるなと思いつつ、隠すような事でもないので、京子は耳の後ろに指を当てながら答える。 「香水つけてんだよ。今朝、『女優』の兄さんがつけてみろって」 「珍しいね……それで?」 「なんか知らねェけど、龍麻の奴が気に入ったみてェ」 それだけの事だと、京子は締め括る。 香水を吹き付けた、耳の後ろ。 どうにも気になって、京子はずっと其処に指を当てていた。 其処に今度は八剣の手が伸びた。 「香水か。…道理で」 「なんだよ、匂うのか?」 「少しね」 つけたのは今朝だと言ったら、香水の持続力は各メーカーと品、使う各個人で異なると八剣は言った。 そんなもんか、と呟けば、八剣は頷いた。 耳の後ろに触れた八剣の指が、どうもくすぐったくて京子は首を竦める。 龍麻が触れていた時とは微妙に違う感覚がした。 触れている場所は同じなのに。 指は数回探るように彷徨った後で、京子が触れていた所と同じ場所に行き着いた。 ゆっくりと撫でるように、其処の曲線を撫でられる。 「……ふぅん」 呟かれた声に、京子はくすぐったさに細めていた目を開ける。 見上げた先にあったのは、常の笑みとも、無表情とも違う、見慣れぬ表情の男。 半分呆れが交じったような色をしていた。 くすぐったさに耐え切れなくなって、京子は八剣の手を退けた。 ―――――すると、その手を今度は捉えられる。 「おいで」 言うなり、八剣は京子の手を引いて歩き出した。 向かう先は、恐らく拳武館の寮――――八剣の住処だろう。 行く予定はなかった京子だが、大人しくついて行った。 自分の手を引く八剣の手が、いつもよりも少し強い力で繋いでいるような気がして。 拳武館の寮にも随分慣れた。 其処で顔を合わせる面々にも。 多分、今ならもう一人で出入りするのも抵抗を感じないだろう。 八剣の部屋にも、もう何度訪れたか判らない。 最初はいつの間にか連れ込まれていたり――――目が覚めたら此処にいたり、なんて事が多かった。 とにかく、京子自身の意思で此処に来るようになった訳ではなかった筈だ。 それが自分でも足が向くようになったのは、八剣と、所謂“恋人”の関係になってからだ。 何がどうなってそうなったのか、正直、京子ははっきりとは覚えていなかった。 気を赦すようになって、次第にこの部屋で目覚めることに抵抗がなくなって、触れる八剣の手を振り払うこともなくなって、……思えば、八剣は相当根気強く待ったのではないだろうか。 京子が、自分の八剣への感情の特殊性に気付くのも随分遅く、理解した後に自らそれを認めるまでも時間がかかったし、初めての事に戸惑い過ぎて頭がショートした位だ。 その間、八剣は無理強いも焦らせるような事もせず、ただ傍にいて、混乱した京子が一緒にいる事に苦痛を覚えれば、自ら距離を置いていた。 初めて体を重ねた時に、かなり待ったと言うような節を漏らしたような気がする―――よくは覚えていないけれど。 最初は隠していたつもりだった間柄は、拳武館の面々にはあっと言う間に知れ渡った。 八剣が自分から喋ったらしい……浮かれ気味で。 そのことを聞いた時は、本気で恥ずかしさで死ねると思った京子だ。 真神の面々には言っていないが、龍麻はそれでも気付いた。 彼が言うには、京子が自分の感情を自覚する前から、そんな気はしていた、との事だ。 この時も恥ずかしさで死ねると思った。 以来、不定期ではあるが、京子は八剣の部屋を自ら訪れるようになった。 其処で過ごす時間は、時々によって気まぐれだ。 体を重ねることもあれば、何をするでもなく、それこそ喋ることもせずに時間を共有することもある。 泊まる日もあるし、直ぐに帰ることもあるし、日が暮れてから京子が寮を出ることもあった。 夜間に一人で外に出ることを八剣は止めないから、京子のスタンスはいつまでも変わらずに保たれている。 縛られるのは嫌いだから、京子にとって八剣の姿勢は有り難かった。 寮に入った所で、羅刹と逢った。 雨紋雷人と付き合っている彼女とは、所謂“コイバナ”と言うものも時々するようになった。 とは言え、バンドの関係で女性と何かと接する機会の多い雨紋と違って、意外に八剣は周囲に対して淡白だ。 最初の出会いの時、八剣の口振りから京子は彼を「ナンパ野郎」と呼んだが、あの男はまるで女っ気がない。 拳武館の女性と、自分以外の女が彼に近付く所を、京子は見た事がなかった。 なので、羅刹との“コイバナ”は殆どが羅刹の愚痴で始まり、終わる事が多かったりする。 先日逢った時に比べて嬉しそうな顔をしていた彼女は、これから雨紋の所に行くのだと言っていた。 足早に出て行く羅刹の後ろ姿は、正しく、“恋する乙女”そのものだ。 羅刹を見送ってから、京子は自分の前を歩く八剣を見た。 自分もこの男と恋仲ではあるが、自分は羅刹のようにはなりそうにない。 ……なる訳もないとも思う。 もともと、ああ言った性格は自分には無縁のものなのだ。 半ばぼんやりとして付いて行っている内に、八剣の部屋に辿り着く。 レディファースト、とばかりに八剣が扉を開け、中に入るように促す。 これも随分慣れた、京子は特に躊躇うことなくテリトリーに踏み込む。 扉の閉まる音を背に聞きながら、京子は奥へ上がる。 物の少ない部屋の景色にも慣れた。 勝手知ったる空間に、京子は鞄を投げて木刀も下ろし、綺麗にシーツの張ったベッドに沈む。 ああ、飯食ってくりゃ良かった。 そう考えたものの、此処にいても食事は出来る。 八剣が自炊しているのだ。 取り敢えずしばらく寝ていようか、と思い、目を閉じる。 すると、背中に触れた温もりに、閉じたばかりの目を開ける。 うつ伏せの姿勢のまま、首を巡らせて背中を見れば、 「……何してんだよ、お前」 圧し掛かっているのは、八剣だ。 重みはないが、其処にいられると、どうも頭上に圧迫感を感じる。 居心地の悪さを感じて、京子は抜け出そうと試みた。 しかし、腕を掴まれてシーツに押さえ付けられる。 「おい、八剣――――」 「じっとして」 何してんだと言おうとして、耳元で囁かれる。 低い声音と、吹きかかる吐息に、京子の体が僅かに震えた。 次 |