夜の世界 : 第三節












目覚めて、おはよう、と言う声が聞こえた。
けれども京子はその声よりも、此処が何処であるのかが判らずに、起き上がることも忘れて眼前に広がる光景に見入っていた。

寝転がっている状態なので、眼前に広がっているのは、夜の空である。
目覚めて一番にそれが見えるという状況を、京子は経験した事がなかった。
眠り、目が覚めて最初に見えるのは、色のない天井であった筈だ。



しばらく静止していたが、少しずつ頭が回り始めて理解する。

外だ、と。




起き上がると、目に入るものは、夜の空から沢山の緑に変わった。
それが『木』と呼ぶものであり、所々に点在する光は『花』であると、ついさっき自分は知った。
それらは幾つもの形や色があって、個々は須く違うものであるのだと。

―――――教えてくれたものは、傍らで此方を見ていた。






「……たつま」
「うん。おはよう、京」






覚えていた名を紡げば、龍麻は微笑んで、もう一度同じ言葉を言った。
その言葉は、目が覚めた時に投げかけられたものである事は知っていた。

沈黙していると、龍麻があのね、と言った。






「おはようって言われたら、おはようって言うんだよ」
「そうなのか?」
「うん。起きたよって挨拶なんだ」






そうだったのか。
京子は初めて認識する。


狭い世界の中では、八剣がいつも言っていた。
京子は、それが自分が目覚めたのを合図に投げかけられる事は覚えていたが、意味を知らなかった。
だから、挨拶に挨拶で返すことも、京子は知らない。

八剣は京子に色々なことを教えたが、どうやら、教えていないことも多いらしい。






「おはよう、京」
「……おはよう」
「うん」






初めて紡いでみれば、龍麻は嬉しそうに笑った。
その笑顔に、なんだか胸の奥が不思議な色を覚えたような気がして、京子は首を傾げて頭を掻いた。


カチン、と音が聞こえて、京子は音がした方を見た。
八剣が長い棒のようなものを持っていて、それを丁度腰に挿している所だった。

八剣が此方を見ると、当然、目が合う。
いつもと同じ笑を浮かべて、八剣は言った。






「おはよう、京ちゃん」
「……おはよう」






八剣が瞠目する。

なんでそんな顔をするんだと思った京子だったが、今まで挨拶を返していなかったからだと直ぐに気付いた。
意味が判らなかったから、黙ったまま受け流すことが常だったのが、今初めて挨拶を返した。
だから、八剣は少し驚いたのだろう。


八剣はしばしの間、じっと京子を見つめていた。
そんなに驚くことだったんだろうか、と首を傾げていると、くすりと八剣が吹き出す。






「京ちゃんが俺におはようって言うのは、なんだか少し可笑しいね」
「言われたら言うんだって龍麻が言った」
「うん、間違いじゃないけどね」






くつくつと笑う意味が判らずに、京子は反対側に首を傾げた。
後ろから、もう一つ笑う声が聞こえて、振り返ってみれば其処にいるのは龍麻で。

しばらく二人を眺めていた京子だったが、いつまで経っても二人が笑うのを止めないので、なんだか腹の底がふつふつとしてきた。
それは京子が自覚するよりも表情に出ていて、眉根が寄り、唇が尖っている。
拗ねていると判る顔をしているのを見つけて、龍麻と八剣はようやっと笑うのを止めた。






「ごめん、京」
「悪かったよ、京ちゃん」
「…………」






直ぐに京子の眉尻が降りる。
眉間の皺も消えた。

腹の底がふつふつしていたのが収まったのを感じて、京子は今のはなんだろうと腹に手を当てた。
其処は別に熱くもないし、冷たいわけでもなく、いつもの通りだ。


考える時間はあまり与えられなかった。
隣で龍麻が名を呼んだのだ。






「京、ちょっと良い?」
「あ?」






龍麻の手には、見覚えがあるような、ないような―――不思議な形をした布。
しばらくそれを見つめてから、龍麻が着ている衣と形が似ていることに気付いた。






「京、殆ど下着だけだから……やっぱりまずいと思うんだ」
「………?」
「冷える事もあるだろうし。外套だけだと、ちょっと頼りないし」
「何が…?」
「説明は後でするから、着替えてくれないかな」






着替える。
……着替える。

少し考えてから、京子はその意味を思い出すことが出来た。






「着替え方、判る?」






問うてきたのは八剣だ。
京子は暫く沈黙したが、判るような気がしたので、頷いた。

今着ている服の上でいいから、と言われ、差し出された布を受け取る。
外套が邪魔だったので取り払うと、八剣がそれを拾った。



もたもたとしたものではあったが、京子は渡された衣を、なんとか一人で着れそうだった。

その動きがどうにも拙くて、塔ではどうやって着替えていたのか、龍麻は疑問を抱く。
……その疑問の仮の答えは直ぐに浮かんで龍麻の視線は八剣へと向けられた。
八剣はその視線に気付いているのか、いないのか――――……とにかく、此方を無視している格好だ。


ふと京子の手が止まる。
立付袴を履いた所だった。






「京?」
「……落ちる」





どうしたのかと声をかけた龍麻に、帰ってきたのは端的な言葉。
しばらく龍麻は考えたが、京子の手が袴の両端を掴まえているのを見て理解する。






「じっとしててね」






京子は、言われた通りに動かなかった。
龍麻は手早く袴の紐を結び付ける。






「もういいよ」
「……落ちねェ」
「うん。今度、ちゃんと教えるね」
「その前に、京ちゃんの服は買わなきゃならないよ。草鞋も大きいしね」






龍麻なら丁度良い長さの袴も、半纏も、京子には少し大きい。
本人が慣れていない様子もあって、なんだか着せられている感じがした。

それでも不思議そうに袖や足元を見ている京子は、服に対して嫌な感情は覚えなかったようだ

それを確認して、龍麻は地面に置いていた荷物袋を肩に担ぐ。






「じゃ、行こうか」






龍麻が何処に行こうとしているのか、京子は判らなかったが、聞く気もなかった。

京子がずっと求めているのは、夢に見たあの情景で、他の事は自分でもよく判らない。
ただ行く先に見知らぬものが溢れているのはなんとなく感じられて、それを見られるのは悪くないと思う。



歩き出した二人を追うように足を前に出そうとして―――――京子は、ふと気付いた。








(………?)







見える世界が、眠る前と少し違う。
木の緑が、眠る前よりもはっきりと見ることが出来る。

辺りを見回すと、川を挟んだ向こう側が見えた。
対岸である。
眠る前は、其処は暗く沈んで見えなかった筈だ。


見付けた違和感がどんどん膨らんで行って、京子はどうして世界が違うのか判らず、首を傾げた。



京子が追って来ない気配に気付いて、龍麻と八剣が振り返る。
二人が見たのは、此方に背を向けたまま、立ち尽くしている少女の後ろ姿だった。






「京ちゃん、どうかしたのかい?」






問われて振り返った京子は、しばらく沈黙した。
言葉を捜して、それから。






「……違う、気がする」
「何が?」
「…寝る前と。周りが」






呟いて、京子は空を見上げた。
変わる事のない夜の空を。

見上げて、京子は見たことのなかった光を見つける。



夜の色の中、星よりも明るい色を見付けた。
漆の中に点在する小さな白よりも、もっとずっと大きな白。

丸い形をしたそれに、京子は目を奪われた。


見上げたまま立ち尽くす京子に、龍麻と八剣も視線を追う。
其処に存在する光に、ああ――――、と二人は納得した。






「今日は月が出る日みたいだね」
「つき、」
「うん。時々、ずっと東の方から浮かんできて、道を照らしてくれるんだ」
「……ひがし?」
「方向の事。んーと…これも今度説明しよっか」
「………ん」






頷いて、京子はまた空を見た。
漆色の空で、淡い白い光を放つ月を。



“天の塔”の京子の部屋は、北側に位置する。
外が見える場所は、あの小さな窓一つだけで、あれは真北を向いていた。

太陽が失われてからも、月は東から昇り、南を通り、西へと沈む。
北の方角ばかりを見つめる形になっていた京子は、月の存在を知らなかった。
僅かな変化を見せる空の色が、時にその月によって齎されていた事も、やはり知らずに。


月が顔を見せるサイクルは、不定期だ。
太陽が失われ、夜の時間だけになったからと言って、月が出ずっぱりになった訳ではない。
昇っては沈み、暫くの間は姿を消し、数日の時間を経てまた顔を見せる。




始めてみる大きな光に、京子はすっかり意識を持って行かれている。
そのまま、彼女が気が済むまで此処にいるのも、悪くはないと思うけれど、






「行こう、京。月があるから、昨日よりもっと色んなものが見付けられるよ」






進まなければならないことを、直接言っても良かった。
だけれど、意識して急かす事は嫌だった。

遠回しに先へ進むことを促すと、京子は龍麻の言葉をそのまま受け取ってくれたようで、何処か弾んだ足取りで二人を追い駆けて行った。








































京子は、寝る前よりも少し活発に動き回った。
昨日は龍麻の後ろを歩いていたのが、今日は龍麻を追い越すこともあった。
花や木の実、動物の足跡を見付けた時がそうだった。


外の世界への戸惑いが少しずつ薄れ、次に浮かんでくるのは好奇心。

あれはなんだ、これはなんだと問う京子に、龍麻も八剣も一つ一つ付き合った。
小難しい説明は里に着いた時にゆっくり話す事にして、見付けたものが“何”であるのかを教えた。


道中、食べられる木の実は取って食べた。
龍麻が木登りをしてみせると、京子も出来た。
出来た自分が不思議だったようだが、地面よりも高い場所を彼女は気に入ったようだった。

甘い果実も、京子は大層気に入った。
“美味しい”の意味も判ってきたようで、小さな声で“おいしい”とも言った。



ほう、ほう、と鳴く声に、京子が不思議そうな顔をするから、あれはフクロウの鳴き声だと龍麻が教えた。


太陽の光が失われ、夜の世界に適応すべく命はそれぞれの進化を遂げた。
そんな中、フクロウもやはり変化期があったが、鳴く時間だけは染み付いた修正のように変わらず残った。
だから今は、昔の時間で言えば夜だ。

進化の過程の中で大きく変化を果たした種もいれば、祖先の特徴をそのまま受け継いだ種もあった。
フクロウは、その後者だ。




フクロウ、フクロウ、フクロウ……
知ったばかりの言葉を忘れないように、京子は何度も繰り返した。

その様子を傍ら見つめながら、龍麻は笑みを浮かべ、






「知らないもの、一杯ある?」






訊ねられて、京子は大きく頷いた。
それが酷く幼い仕種に見えて、龍麻は可笑しくなって笑いが漏れた。
京子はそれを気にしなかったようで、また空を見上げる。




京子は、随分月が気に入ったようだった。

龍麻は、それが一番嬉しかった。
月は龍麻にとって、遠いものではなかったから。



月夜を見上げて歩く京子の横顔を、八剣も見ていた。

月をそのまま映し出す彼女の瞳は、何十年と見てきたどの表情よりも、ずっと煌いている。
揺り起こされることのなかった京子の感情は、確かに芽を出し始めていた。


―――――笑った顔が、見れるかも知れない。
そう思うと、俄かに喜びが湧き上がってくる自分を自覚した。









だが、無粋な輩と言う者は、こんな時にやって来る。








ガサガサと煩い音が左右の茂みから聞こえた。

動物にしては奇妙な鳴らし方で、八剣が腰の刀に手を添える。
龍麻も立ち止まり、京子を庇う形で前に立った。
京子はきょとんとしていたが、二人の雰囲気の雰囲気に刺々しさを感じて、足を止める。



茂みの中から現れたのは、ボロ衣を纏い、錆びた刃を手に手に構えた薄汚い四人の男。
龍麻は見た目で人を判断するつもりはなかったが、それにしても、この男達は皆、醜悪であった。






「へへへ……兄ちゃん達、ちょいと待ってくんな」
「そう怖い顔すんなってェ」






歪んだ形に笑う口から、ずるりと蛇のように長い舌が伸びる。
それぞれの手の刀は、錆びている上に鍔が壊れ、挙句、はばき(刀身が鞘から抜け落ちないようにするための金具)が緩んでいるようで、男達が体を揺する度にかちゃりかちゃりと耳障りな音を立てている。






「……やだなぁ」
「美しくないね」
「……?」






無表情に冷たい音で言い放つ二人に挟まれて、京子は意味が判らず首を傾げていた。


じり、と前に立つ二人の男が近付いた。






「身包みと女、置いてって貰おうか」
「そうすりゃ痛い目見なくて済むぜェ」






卑下た笑い声を上げながら、男達は耳障りな声で脅す。


どう考えても頭が正常に働いているとは言い難い顔をして、告げる言葉もやはり欲望にのみ塗れたもの。
風体然り、持っている獲物も不気味さを誘い、出来れば関わりたくないと思うのが本来の反応だろう。

嘘偽りなく、龍麻も八剣も関わりたくない。
常日頃ですらそう思うだろうに、今は京子もいるのだから、尚更に。






「京ちゃん、目を合わせちゃ駄目だよ」
「? なんだ?」
「いいから」






目を合わせるなと言われても――――そんな様子で、京子は取り合えず、判り易く目の前の男達から目を逸らした。






「月が出ると、こういう輩にも出くわし易くなるのかな?」 「…嫌なんだけどなあ、僕は」
「緋勇がそう思わなくても、誰も歓迎しやしないよ」






平静とした龍麻と八剣、明後日の方向を向いた京子。
恐れ戦く様子もなければ、焦った素振りさえ見せない三人に、男の一人が苛々とした声を上げた。






「おい、聞いてんのかテメェら!」
「ああ、聞こえてるよ。聞きたくもないんだけどね、本当は」






面倒臭いとばかりに、溜息交じりで八剣が答えた。
その内容は、明らかに男達の神経を逆撫でするものだ。


舐めるな、と吼えて四人の男は刀を構える。
赤錆の浮いた刀は、殺傷力は格段に衰えているだろうが、衛生的に宜しくないのは確かだ。
あれで切られたら、傷口から細菌が入るのは間違いあるまい。

しかしそれらを前にしても、龍麻と八剣は平然としており、京子に至ってはいまいち現状を掴めていなかった。






「緋勇、何人まで行ける?」
「月が出てるから、三人ぐらいは。でも、ちょっと微妙」
「……やれやれ」






八剣が腰の刀を抜いた。






「京ちゃん、動いちゃ駄目だよ」






京子はやはり現在の状況を判っていないようだったが、八剣の言葉には素直に頷いた。



それまで後ろを歩いていた八剣が、前に出る。
龍麻と並ぶ形になって、京子はなんとなく、その背中を見ていた。

視界の端で閃く光を追い駆けて視線を落とすと、黒墨の筒から取り出された棒が月明かりを反射している。
八剣の腰に長い棒が据えられているのは、時折見た事があったから、京子も知っていた。
けれども、その棒からまた長い棒が出てきたのを見たのは、これが初めてだ。


その棒を見つめている京子の瞳の奥で、何かが一瞬、揺らめいた。
それを、彼女が自覚する事はなかったけれど。





当然と言う顔で、逃げ出すことも慄くこともしない三人。
うちの一人、女に至っては、現状を全く判っていないことは、男達にも容易に想像がついた。

しかし、ならば彼らにとっては返って都合が良い。
何処か幼い雰囲気を纏った少女の表情は、男達にとって手篭めにし易い事を教えているようなものだった。


優男の持つ刀は、値打ちものだと踏んだ。
少年の荷にも、何かあるだろう。

この二人は自分たちの言う事を聞くつもりはないようだが、どちらも武に長けているようには見えない。
優男は飄々として覇気もなく、少年は虫も殺さぬ大人しい顔立ち。
適当にいなして、身包みを這いで捨てて、女は手に入れる、難しいことではない。
数も勝る、男達はそう思っていた。



――――――だが、それは大きな間違いであった。




少年が消えた―――――と思った時には、既に一人の男が宙で躯を捻らせていた。







「なッ、」







驚愕に響きかけた声すら、形にはならず。
少年を目で追った男は、次の瞬間には胸部に閃く刃を視界の端で捉え、かと思った時には既に意識を飛ばしていた。

一秒にも満たぬ時間の中で、二人の男が地に沈む。


人が感知できる速度ではない。
残った二人は、目を丸くして少年と優男を見た。






「な、なんだ、妖術使いか?」
「まさか妖怪……」
「そんな詐欺師紛いと一緒にしないで貰いたいね」
「妖怪でもないよ」






だが、常人の目では、そう見えても無理はない。
龍麻も八剣も、自覚していた。


男二人がたじろいだ。
腰は既に引けていて、下半身は逃げ出す為の出足を踏んでいる。

この場からいなくなってくれると言うなら、龍麻も八剣も、追い駆けるつもりはなかった。
彼らと自分たちで実力の差は明らかだったし、無為な闘争も本意ではないのだ。



二人の後ろで、がさりと音がした。
それに気付いたのは京子だけで、京子は音の発信源が気になって、其方に目を向けた。

瞬間、尖った切っ先が眼前に迫っていた。








「――――あ、」







悲鳴にもならない声だ。
そんな色もない。
何かが来ている、そんな気持ちで漏れた声。

しかし、そんな小さな声でも、龍麻と八剣を振り返らせるには十分で、残った二人の男を色めき立たせる事に成功していた。






「京ッ」
「京ちゃん」






少女を腕の中に囲い、その眼前に折れた刀の切っ先を向ける男。
龍麻と八剣の前にいる二人と同じく、その男も醜悪な面をしていた。

じゅるりと伸びた舌が、京子の頬を舐めた。
そのうぞりとした感触が気持ち悪くて、京子ははっきりと顔を顰める。
男は京子のその表情を見下ろして、にやにやと厭らしい笑みを浮かべると、京子の顎を捉えてその顔を覗き込んだ。






「へェ、綺麗ェなツラだァ。別嬪だな。肌もいいニオイするじゃねェか」
「う……!」






間近で吐き付けられた臭い匂い。
息だけではない、顔そのものが臭い。
鼻がツンとする。

京子は臭いと言う意識は認識出来なかったが、不快である事に間違いはなかった。


自分の顔の直ぐ目の前に位置する刃の事は、気にならなかった。
それの意味が判らなかったし、それよりも臭い匂いが気持ち悪くて堪らない。

どうにかその匂いから逃れたくて、京子は身を捩る。
しかし外套の上から一纏めに囲われている為、叶わなかった。






「はな、せッ! 気持ち悪ィ!」
「おいおい、ご挨拶だなァ」
「気持ち悪ィから気持ち悪ィって言ってんだ! 離せ!」
「京ちゃん、動いたら危ないッ」






八剣の声に、京子ははたりと動きを止める。
少しでも顔を前に出したら、眼球に金属の破片が突き刺さる所だったのだ。



危ない。
危ない?


京子が動きを止めたのは、刃に恐れを覚えたからではない。
八剣の言葉の示す意味を汲み取れず、意味が判らず、戸惑いから停止したのだ。

だが男達にすれば、京子が動きを止めた理由はどうでも良いことで、都合が良くなるだけだった。






「大丈夫だァ。暴れなきゃ痛ェ事はなァんにもねェよ」
「………」
「そうそう。イイ子にしてな」






ひひ、と好色な笑みを浮かべる男。









するり、と男の手が京子の体を滑り始めた。













夜の世界 : 第四節
えー……アレな所で引きです。すみません(意外と長くなったんだ…!)。
大丈夫です。こんな連中にうちの京ちゃんあげません。やって堪るか!!

一応和性ファンタジーを気取ってるので、服装は基本的に和装です。
京子と龍麻の格好は、詳しくは設定画集にてアップしようと思っています。
…八剣はあのまんまでいい。